最近疫学的に注目される皮膚糸状菌症についてのご注意 |
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日本医真菌学会 疫学調査委員会 委員長 西本勝太郎 |
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日本医真菌学会 疫学調査委員会では現在2002年次皮膚真菌症疫学調査を行っているが、最近各地の学会等において、疫学的に注目される皮膚糸状菌症が報告されている。
そこで、会員各位に以下の事例について注意を喚起したい。
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1. ペット用小動物に由来するArthroderma (A.) benhamiae 感染症1)-3) |
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感染の概要:Trichophyton (T.) mentagrophytesの有性世代の一つA.benhamiaeは1980年以前には本邦に分布しないとされていたが、近年ペットのウサギやモルモットから感染したと考えられる白癬から分離されている。分離地域は島根県、岐阜県、東京都、長崎県と広範囲にわたり、兵庫県、埼玉県からは動物からの分離例も報告されている。本邦で分離された菌は分子生物学的にすでに多型がみられるため、数次にわたる汚染動物の輸入、国内の業者による繁殖とそれらの移動にともない、すでに多くのクローンが国内に拡散していると考えられる。
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臨床病型:多くは体部白癬で、ペットとの接触の機会が多い露出部に単発あるいは数個発生する。皮疹は鱗屑を伴う紅斑で、炎症症状が強い。家族内発生がある。またケルスス禿瘡を起こすことがある。感染ペットの病巣は炎症症状の軽微な脱毛斑として認められる。 |
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留意点:最近、本邦で飼育、販売されているヨツユビハリネズミの針毛から高率にA. benhamiae (T. mentagrophytes var. erinacei ) が分離されることが報告された4)。ペットの多様化にともないヨツユビハリネズミからの本症の発生が懸念される。感染ペットの治療には獣医師の協力が欠かせない。 |
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2. 格闘技競技者におけるT. tonsurans 感染症 |
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感染の概要:本菌は南北アメリカや欧州では頭部白癬の主要原因菌であり、近年では本菌による体部白癬がレスリングや柔道愛好家の間で多発している。一方本邦では最近まで本菌が分離されることはまれであったが、2001年頃から宮城県、山形県、石川県、東京都の高等学校柔道部員5)、あるいは大阪府、石川県の高等学校レスリング部員の白癬の集団発生例6)から相次いで分離されている。 |
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臨床病型:本菌による頭部の白癬には、白色の鱗屑が付着し、脱毛の明らかでない脂漏型、黒点が集族あるいは散在し、脱毛が明らかなblack dotringworm (BDR)、そして炎症の強いkerion celsiの3つの型を認める。脂漏型、BDRでは自覚症状は軽微か、全くこれを欠く。体部白癬では単発あるいは複数の病巣を顔面、上半身に認める。皮疹は直径1-2cmの小さなものが多く、鱗屑を付けた淡い紅斑 (pityriasis alba あるいは pityriasis rosea様)で、中心治癒傾向のある環状の紅斑を呈することがある。時に手指の爪白癬(endonyx型)を生じる。 |
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留意点:医療機関には症状の明らかな体部白癬で受診することが多い。一方頭部白癬は自覚症状、臨床症状とも軽微で、見のがされやすいが、自然治癒することはない。家族内で繰り返し白癬が発生した例で、頭部白癬患者が感染源になった例が知られている。正確な診断で世代間の感染を防止する必要がある。 |
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なお、これらの菌による流行の解析には、会員各位の日常診療における積極的な真菌培養と症例報告が不可欠であった。ここに普段からの会員各位のご努力に感謝するとともに、一層のご協力をお願いしたい。 |
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1) Mochizuki T, Watanabe S, Kawasaki M, Tanabe H, Ishizaki H:A Japanese case of tinea
corporis caused by Arthroderma benhamiae. J. Dermatol 29:251-255, 2002 |
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2) Kawasaki M, Aso M, Inoue T, Ohsawa T, Ishioka S, Mochizuki T, Ishizaki H:Tow Cases of Tinea Corporis by Infection from a Rabbit with Arthroderma benhamiae. Jpn. J. Med.Mycol. 41:263-267, 2000 |
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3) 今福 武、西本勝太郎:ウサギから感染したArthroderma benhamiaeによる顔面および陰嚢の白癬の親子例. 西日本皮膚科 64:732-735, 2002 |
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4) 高橋容子、佐野文子、滝澤香代子、福島和貴、宮治 誠、西村和子:我が国のヨツユビハリネズミ(Atelerixalbiventris)におけるTrichophyton mentagrophytes var. erinacei 感染の疫学調査と分離菌の解析. 真菌誌 43(Suppl.2): 106, 2002 |
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