用語解説
A B C D E F G H I L M N O P Q S T

※著者の所属機関は雑誌掲載時のものになります
A
アゾール系抗真菌薬
Azole antifungal agents

 抗真菌薬の一種であり,深在性真菌症治療にはミコナゾール,イトラコナゾール,フルコナゾール,ホスフルコナゾール,ボリコナゾール,表在性皮膚真菌症には,ビホナゾール,塩酸ネチコナゾール,ケトコナゾール,ラノコナゾール,ルリコナゾールなどが日本国内で使用されている.アゾール系抗真菌薬は,CYP51A1 によるラノステロールの脱メチル化反応を阻害し,真菌の増殖に必須であるエルゴステロールの合成を阻害する.また,Candida albicans においてはアゾール系抗真菌薬によって蓄積したラノステロールから副次的に産生される毒性をもつステロール(14α-methylergosta-8, 24(28)-diene-3,6-diol)も,菌の増殖を抑制する効果をもつと考えられている.一部の一次耐性を示すCandida属(C. glabrata,C. krusei)を除いて多くの病原真菌に対して抗真菌活性を有するため,さまざまな真菌症に対して幅広く使用されている.カンジダ,クリプトコックスなどの酵母に対しては静菌的に作用し,アスペルギルスに対しては殺菌的(ボリコナゾールのみ)に作用する.各病原真菌において耐性株の報告が散見されるものの,分離菌全体の顕著な感受性の低下は認められていない.

References:
・Akins RA. Med. Mycol 43: 285-318 (2005)

国立感染症研究所真菌部・田辺公一,大野秀明
日本医真菌学会雑誌55巻2号掲載

星状(小)体
Asteroid body

 星芒(小)体ともいう.スポロトリコーシスの組織標本で,膿瘍内の菌体周囲を好酸性(HE 染色で赤い)物質が取り囲みそれが周囲へ放射状に伸びて星芒状に見えることから星状体あるいは星芒体と呼ばれている.この好酸性物質はIgG などを含む抗原抗体複合物や血漿成分からなる.同様の物質が組織中で糸状菌,放線菌,寄生虫幼虫などを囲むように認められSplendore-Hoeppli現象と呼ばれているが,星状体もこの現象の1 つである.なお,サルコイドーシスや数種の感染症の組織標本で,組織球系巨細胞の細胞質に認められる好酸性線維状物と空胞が交互に並んで星状に見える構造も星状体と同じ名前で呼ばれているがまったく異なるものであり混乱しないように注意したい.

References:
・Rodriguez G, et al. Am J Dermatopathol 20: 246-249 (1998)
・Kwon-Chung KJ, et al. Medical Mycology. Lea & Febiger, Malvern, USA,
  (1992)

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌55巻3号掲載

アレルギー性真菌性副鼻腔炎
allergic fungal sinusitis

 アレルギー性真菌性副鼻腔炎はアトピー性素因などを背景にアレルギー機序により生じ,通常は若く(平均22歳)免疫力の保持された宿主に生じる.報告数が少なく病態について不明な点も多い.菌球を生じる腐生性の真菌性副鼻腔炎とは鑑別しなくてはならない.標準的な診断基準としてBent とKuhn によるものや米国アレルギー喘息免疫学会のガイドラインがあり,1 型アレルギー,鼻ポリープ,片側性で不均一な信号を示す特徴的なCT 画像,好酸球を含んだ粘液および真菌の検出,組織への真菌の浸潤がないことの5項目を満たすものとされている.アレルギー性ムチンと呼ばれる高度に粘稠な副鼻腔内容物の組織像は特徴的で,粘液の中に多数の好酸球が認められ,その崩壊産物であるシャルコーライデン結晶が見られることも多い.真菌は通常粘液内に少数散見されるのみであるため,注意して鏡検する必要がある.培養で分離される真菌は黒色真菌が最も多く,次いでアスペルギルスである.

References:
・Bent JP, 3rd, Kuhn FA. Diagnosis of allergic fungal
 sinusitis. Otolaryngol Head Neck Surg 111: 580-588,  1994.
・Meltzer EO et al., Rhinosinusitis: Developing guidance  for clinical trials. J Allergy Clin Immunol 118: s17-61,  2006.

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌55巻4号掲載

アスペルギローマ
Aspergilloma

 菌球型アスペルギルス症と同義である.陳旧性肺結核などにより生じた空洞内や種々の疾患により拡張した気管支内に経気道的にアスペルギルスが侵入し,そこで増殖した大量の真菌がボール状の菌塊である菌球を形成するアスペルギルス症の1 病型である.腐生性の増殖であり,組織への真菌の侵襲は認められないが,慢性壊死性肺アスペルギルス症へ移行する症例も経験されている.胸部画像上,空洞内に円形の菌球陰影やそれを取り巻く含気層が観察される.血清学的検査でアスペルギルスに対する沈降抗体が陽性となる.無症状のことも多いが,喀血などの場合には病変部の切除も考慮される.菌球は無数の増殖菌糸からなるが,アスペルギルスに特徴的な分生子頭の形成が見られ,シュウ酸カルシウム結晶を伴うことがある.

References:
・安藤常浩:肺アスペルギルス症の臨床像と病理. 深在性真菌症,
 病理診断アップデートレビュー(渋谷和俊, 久米光監修),
 pp.23-31, 協和企画, 東京, 2012.

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌55巻4号掲載

抗酸性染色
Acid-fast stain

 抗酸菌染色ともいう.結核菌などの抗酸菌を証明する染色法である.真菌関連でこの染色が用いられるのはノカルジアに対してである.ノカルジアは細菌ではあるが菌体が細長いため菌糸様で,抗酸性を示すため本染色が用いられる.抗酸性とは一端細胞壁に入った色素がその後の酸による処理過程で脱色されない性質をいう.抗酸性染色の代表であるチール・ニールセン染色では,ホルマリン固定パラフィン切片の脱パラフィン後,石炭酸フクシンで染色し塩酸アルコールで脱色すると,組織中の抗酸菌以外の部分は脱色され,抗酸菌は脱色されず菌体の赤色調が残存する.石炭酸フクシンの代わりにローダミンおよびオーラミン蛍光色素で染色すると蛍光顕微鏡で黄〜黄橙色の蛍光を発する菌体が確認でき感度が良い.なおノカルジアの抗酸性は弱いため脱色には塩酸アルコールに代えて硫酸水を用いる.

References:
・藤田浩司ら:抗酸菌染色.最新染色法のすべて(水口國雄編),pp.93-98, 医
 歯薬出版, 東京, 2011.
・広井禎之ら:抗酸菌染色とその特異性に関する検討.病理技術45: 18-20,
 1992.

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌56巻3号掲載

凝集反応
Agglutination

 微生物や赤血球などの細胞表面にある抗原分子が,特異的な抗体と反応して大小の凝集塊を形成する反応を凝集反応という.その反応特異性と目視や濁度測定で簡便に反応性を評価できるという点から,臨床検査で用いられている.可溶性抗原を粒子状の担体に結合させておき,抗原に結合する抗体が存在すると凝集が生じる受身凝集反応や抗体を結合させたラテックス粒子が,試料中の抗原と免疫複合体を形成することで,凝集する凝集比濁法などがある.真菌症診断においても,グルクロノキシロマンナン抗原に対しラテックス凝集法を用いた方法が血清学的診断法として用いられている.

References:
・Wang H, et al: Latex agglutination: diagnose the early
 Cryptococcus neoformans test of capsular polysac
charide antigen. Pak J Pharm Sci 28: 307-11, 2015.
 1992.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻3号掲載

アジアスピロミコーシス
Adiaspiromycosis

 アジアスピロミコーシスは糸状菌Emmonsia 属のEmmonsia parva もしくはEmmonsia crescens によって引き起こされる人獣共通の感染症の1 つである.げっ歯類を中心として動物での症例は非常に多いが,ヒトではこれまでに70 例程度の報告に留まる.これらの真菌は土壌中に存在しており,胞子を吸入することで肺に入ると考えられているが,普遍的に存在するのか,生息地域が限定されているのかは明らかではない.日本では東北以北で野生動物の感染例が報告されている.本菌は肺内で特徴的なアジアスポアという形態を示し(Fig.1:矢印),E. parva, は直径10 から25μm 程度の,E.crescens は直径25 から500μm 程度のアジアスポアを形成する.厚い壁に囲まれた球状をしているが,壁のみを残して内容物が見られない例も多数存在する.これは長期の感染において内部の真菌細胞が消失し,細胞壁のみ残存したと考えられている.その感染機構等は十分な知見が得られていない.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌58巻4号掲載

B
β-グルカン
β-glucan

 グルコピラノースがβ-配位によって結合した多糖のことであり,真菌,細菌,植物など自然界に広く分布する.真菌においては,β-1,3-またはβ-1,6-結合を有するβ-1,3-またはβ-1,6-グルカンが細胞壁の構成多糖,真菌PAMPs として存在する.β-1,3- /β-1,6-グルカンの比率,構造の分岐度は,真菌ごとに異なる.また,それら構造上の特徴や溶解度,分子量,高次構造が炎症性サイトカイン産生などの生物活性に関わっている.β-1,3-グルカンは,接合菌を除く真菌に共通に含まれているため,カブトガニの血液凝固因子であるG因子を用いた評価系が,真菌症の血清診断法として用いられている.また,β-1,3-グルカン合成酵素,Fks に対する阻害剤であるキャンジン系抗真菌薬が,有用な抗真菌薬として臨床で用いられている.

References:Latgè JP, Cell Microbiol. 12, 863-72 (2010)
大野尚仁監修, βグルカンの基礎と応用, シーエムシー出版 (2011)

東京薬大・石橋健一
日本医真菌学会雑誌55巻1号掲載

気管支中心性肉芽腫症
Bronchocentric granulomatosis

 末梢気管支および細気管支を中心にして壊死性肉芽腫が生じる組織反応パターンの1つで,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症で認められることが多く,その他結核・真菌感染・ウェゲナー肉芽腫症・関節リウマチなどでも見られる.病理組織上,上記の末梢気道の壁は組織球の集簇からなる肉芽腫で破壊され,肉芽腫により完全に置換されている場合もある.組織球はしばしば柵状に並ぶ.病変中心部に壊死を伴うが,通常壊死物は気道内腔に認められる.弾性線維染色をおこなうと気道壁の弾性線維が残存していることも消失してしまっていることもある.アレルギー性気管支肺アスペルギルス症で見られる場合は,気管支喘息症状を伴い中枢側の気管支内腔に粘液栓が認められることが多い.

References:
・Travis WD, et al:Bronchial disorders. In Atlas of Nontumor Pathology,
 First series, Fascicle 2, pp.381-433, ARP and AFIP, Washington DC,
 2002.
・Tazelaar HD, et al:Eosinophilic lung disease, In Spencer’s Pathology of
 the Lung, 6th ed(Hasleton P, Flieder DB ed), vol.1, pp.563-584,
 Cambridge University Press, Cambridge, UK, 2013.
近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌56巻3号掲載

バイオフィルム
Biofilm

 バイオフィルムとは、何かの物質表面に付着した微生物のコミュニティであり、微生物集団と微生物によって産生される多糖体やタンパク質などの細胞外マトリックス成分によって構成される密接した3 次元構造体である.それらの微生物間のコミュニケーションは化学的シグナル物質によるクオラムセンシングと呼ばれる機構を介し行われているといわれている.また、バイオフィルム状態にある微生物は、浮遊状態のものとは異なり、その病原性も変化していることも知られている.一般的に薬剤に対し耐性を示し、宿主免疫から防御するなどの性質を示す.カンジダでは、カテーテル留置などの人工物を留置することでバイオフィルムが形成され、感染要因になることが知られている.また、アスペルギルスにおいても、アスペルギローマ形成などの慢性肺アスペルギルス症にかかわっていることが示唆されている.

References:
・Flemming HC, et al: The biofilm matrix. Nat Rev
 Microbiol 8: 623-633, 2010.
・Beauvais A, et al: Aspergillus biofilm in vitro and in
 vivo. Microbiol Spectr 3: 2015.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻4号掲載

C
C-タイプレクチン受容体
C-type lectin receptor

 レクチンは糖鎖に結合性を示すタンパク質である.C-タイプレクチン受容体は糖認識ドメイン(carbohydraterecognition domain; CRD)を持ち,Ca2+依存性に糖鎖を認識する受容体である.細胞外に分泌されるものと膜貫通型のC型レクチンがある.C-タイプレクチン受容体はマクロファージや樹状細胞に多く発現され,細胞内領域を用いてシグナル伝達を行うことにより,貪食作用や活性酸素産生を誘導する.Dectin-1 はβ-グルカンを認識する受容体として,マンノース受容体やDectin-2,Mincle はマンナン等を認識する受容体として機能していることが知られている.また,遺伝子ノックアウトマウスを用いた解析から真菌感染防御に重要であることが報告されている.

References:Hardison SE et al., Nat Immunol. 3, 817-22 (2012)
Saijo S et al., Int Immunol. 23, 467-72 (2011)

東京薬大・石橋健一

日本医真菌学会雑誌55巻1号掲載

クリプトコッコーマ
Cryptococcoma

 限局性で境界明瞭な結節状のクリプトコックス感染病巣のことで,免疫機能が正常に保たれた宿主の肺や脳において認められる.オーマ(-oma)は腫瘍を意味する接尾辞で,本病変がレントゲン写真や肉眼上,腫瘍に見えたことから命名されたものである.腫瘍を疑われ切除されることもある.クリプトコックス感染後年月を経て,直径数mmから数cm大の結節状病変として胸部レントゲン上認められることが多い.脳クリプトコッコーマでは脳腫瘍に類似し脳圧亢進症状を伴うことがあり,早期に治療を開始する必要がある.病理組織上,クリプトコッコーマは3層構造からなり,中心部の広い範囲を乾酪壊死が占めそれを組織球からなる肉芽腫が囲み,最外層は膠原線維からなる線維性組織に被包化されている.菌体の多くは壊死巣に分布するが,変形していることが多く菌体周囲被膜も薄いためヘマトキシリン・エオシン染色での菌体の観察は困難でグロコット染色が有用である.

References:
・Chandler FW, et al:Cryptococcosis. In Pathology of Infectious Diseases(Connor DH, Chandler FW, Manz HJ, et al ed), vol. 2, pp. 989-997,
 Appleton & Lange, Stamford, 1997.
・Chandler FW, et al:Cryptococcosis. In Pathologic Diagnosis of Fungal
 Infections, pp. 161-175, ASCP Press, Chicago, 1987.

近畿大学医学部病理学教室木村雅友
日本医真菌学会雑誌56巻3号掲載

コレクチン
Collectin

 自然免疫は,病原体の認識において重要である.コレクチンは自然免疫において重要な役割を担う.コレクチンは,コラーゲン用ドメインを持ち,Ca2+依存性レクチン(C 型レクチン)ファミリーに属する.コレクチンファミリーとして,マンノース結合レクチン(MBL),サーファクタント蛋白質(SP)-A,SP-D,コングルチニン,コレクチン(CL)-43,CL-46,CL-P1,CL-L1,CK-K1が知られている.多くのものが分泌型であるが,CL-P1,CL-L1 は非分泌型である.コレクチンは,血中や粘膜液表面に存在する.それらは,侵入してきた細菌,真菌,ウイルスなど病原体のPAMPs を認識し,オプソニンとして貪食作用を高める,活性酸素産生を促進する,PAMPs 受容体と相互作用することにより病原体の排除に関わる.また,MBL,SP-A は補体活性化に関与している.MBL 欠損は,小児や免疫不全者における真菌などの感染症発症を高めることが知られている.

References:
・Gupta G et al: Collectins: sentinels of innate immunity.
 Bioessays 29: 452-464, 2007.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻4号掲載

キチン
chitin

 キチンは,N-アセチルグルコサミンがβ-1, 4 結合した重合体であり,真菌細胞壁の主要構成多糖の一つである.キチンは節足動物や甲殻類の外骨格の主成分でもあり,天然に広く分布している.Saccharomyces cerevisiaeではわずか数%であるが,糸状菌では主要な不溶性細胞壁構成成分であることが知られている.キチンの繊維はお互いに,またはグルカンなどの他の細胞壁構成成分と絡み合い,堅い構造をとることが知られており,細胞壁の強度に重要であることが知られている.キチンは白血球の活性化,サイトカイン産生を引き起こすことが報告されており,マウスモデルの肺アレルギー炎症にも関与していることが報告されている.キチン合成酵素(chitin synthase, CHS)の各クラスの働きが研究されており,抗真菌薬のターゲットとしても期待されている.

References:
・Lenardon MD, et al: Chitin synthesis and fungal
 pathogenesis, Curr Opin Microbiol 13: 416-23, 2010.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻1号掲載

D
ディフェンシン
Defensin

 感染初期に病原体を認識し排除する生体防御機構として抗菌ペプチドが知られている.ディフェンシンは,真菌,植物,動物などの真核生物において代表的な抗菌ペプチドであり,大きなファミリーの一つとして知られている.ディフェンシンは,システイン豊富なペプチドであり,分子内で3,4 つのジスルフィド結合をもつ塩基性タンパクである.脊椎動物のディフェンシンには,α-,β-,θ-ディフェンシンがある.α-ディフェンシンは好中球や小腸粘膜に存在し,β-ディフェンシンは広く分布し,多くは皮膚,気管支,尿生殖路の上皮細胞によって産生される.ディフェンシンの抗菌作用は細菌だけではなく,真菌に作用することが報告されている.その機序は,イオンチャネルを標的細胞上に形成し膜透過性を変化させることや,マクロファージや好中球の遊走を促す,炎症性サイトカイン産生を促進することによって抗菌作用を示すことが報告されている.

References:
・Silva PM: Defensins: antifungal lessons from eukary-otes.
 Front Microbiol 5: 97, 2014.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻4号掲載

白癬菌塊
Dermatophytoma

 Dermatophytomaは爪真菌症の一型で,一般的な内服抗真菌薬には抵抗性で,病巣爪甲の外科的除去を必要とするものである.臨床的にはdermatophytoma は爪の中の境界明瞭な白く厚い塊である.これらは楔状や円形の爪甲混濁を形成し,被覆している爪甲を除去すると厚く過角化した塊として認める.自然界に存在する微生物の多くはプランクトンや撹拌した自由に浮遊する微生物ではなくバイオフィルムとして存在する.バイオフィルムは表面に付着する微生物の集落や集合と考えられ,dermatophytoma(白癬菌塊)はこの概念を白癬感染症に応用したものである.古典的なバイオフィルムの例としては歯科のプラークや尿路カテーテル感染などがある.バイオフィルム研究は抗真菌療法の新たな標的となりうる.微生物の接合を減らす物質や,微生物の細胞外マトリックス合成能力を変化させる物質やバイオフィルムに含まれている微生物を破壊できるところまで,より細胞外マトリックスを貫通できる物質が,白癬菌治療の新たな治療戦略の担い手となりうる.

References:
・Burkhart CN, et al: Dermatophytoma: Recalcitrance to
 treatment because of existence of fungal biofilm. J Am
 Acad Dermatol 47, 629-631, 2002.

帝京大学ちば総合医療センター皮膚科・佐藤友隆


日本医真菌学会雑誌59巻1号掲載

E
エルゴステロール
Ergosterol

 エルゴステロールはステロールの一種であり,多くの真菌の主要ステロールである.さまざまなオルガネラに含まれているが,特に細胞膜に多く存在しており,リン脂質や膜タンパク質とともに細胞膜を構成している.エルゴステロール生合成に関わる遺伝子の多くは生育に必須である.哺乳類細胞の主要ステロールであるコレステロールとは,構造と生合成遺伝子の一部が異なるため,エルゴステロールは抗真菌薬のターゲットとなっている.エルゴステロールをターゲットとした抗真菌薬には,生合成遺伝子であるlanosterol 14-α -demethylase を阻害するアゾール系抗真菌薬や,細胞膜のエルゴステロールに結合して抗真菌活性を発揮するポリエン系抗真菌薬がある.

References:
・W de Souza et al. Interdiscip Perspect Infect Dis 2009: 642502 (2009)
・Müllner H et al. Acta Biochim Pol 51(2): 323-47 (2004)

国立感染症研究所真菌部・名木稔,大野秀明
日本医真菌学会雑誌55巻2号掲載

キャンディン系抗真菌薬
Echinocandin antifungal agents

 真菌の細胞壁はグルカン,キチン,マンナンによって構成されている.キャンディン系抗真菌薬は細胞壁の主要構成成分であるβ-1,3 glucan 合成酵素の触媒サブユニットに結合し,グルカン合成を阻害する.カンジダ属に殺菌的作用をもち,一部のカンジダ属を除いて高い感受性を示すため,カンジダ症の第一選択薬として用いられることが多い.アスペルギルス属に対しては静菌的に作用し,また担子菌類と接合菌などは一次耐性を示すことが知られている.
 カンジダ属におけるキャンディン系抗真菌薬耐性化は,おもに標的分子であるβ-1,3 glucan 合成酵素の触媒サブユニットをコードする遺伝子(FKS 遺伝子)上の点変異によって引き起こされると考えられている.実際にキャンディン系抗真菌薬に耐性化したカンジダ臨床分離株のFKS 遺伝子上には,特定のアミノ酸置換変異を引き起こすような点変異が高い頻度で特定されており,これらの遺伝子変異が標的分子と薬剤の親和性を低下させると考えられている.

References:
・Perlin DS. Resistance to echinocandin-class antifun-
 gal drugs: Drug Resist Update 10(3): 121-30 (2007)

国立感染症研究所 真菌部・田辺公一,大野秀明
日本医真菌学会雑誌55巻2号掲載

エモンシア症
Emmonsiosis

 アジアスポアを作らず,宿主内で酵母様の形態を示すEmergomyces属により引き起こされる感染症である.以前は原因真菌にEmmonsia pasteurianaの名前が付されていたが,分子系統解析の結果からEmmonsiaparvaEmmonsia crescens,Blastomyces属、Histoplasma属とも異なるとして,Emerogomyces属が新しく提唱された.Emergomyces africanusEmergomyces pasteurianusなどの新種が含められている.エモンシア症Emmonsiosisという用語が2017年の論文報告のなかでも使用されているが,今後変更される可能性もある.
 エモンシア症は近年になって認識された新興感染症であり,南アフリカではHIV 感染患者において2011 年から2015年の5 年間で50例近くが報告されている.日本での報告は現時点ではない。播種性の感染を起こし,皮膚に多数の病変を形成することが報告されている.本菌は宿主体内や37℃条件下で酵母形となる二形性真菌である.このことからヒストプラズマ症やブラストミセス症と間違われる可能性が複数の報告の中で言及されている.
 本菌およびその感染症についてもまだ研究が始まったばかりであり,感染機構の解明はこれからである.

帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌58巻4号掲載

好酸球
Eosinophil

 好酸球はMBP(major basic protein)などの酸性色素と結合する塩基性タンパク質を含む顆粒を持つ顆粒球であり,PAF,プロスタグランジン,ロイコトリエンなどの脂質メディエーターを産生する.宿主組織の傷害性が強く,炎症反応やアレルギー反応に関与する.真菌との相互作用については,2008 年にYoon らによってAlternariaのβ-glucan に結合し,MBP,EDN(eosinophil derived neurotoxin)などの顆粒タンパク質を放出することが報告されている.また,真菌による喘息やアレルギー性副鼻腔炎の病態に関与していることが報告されている.

References:
・Ravin KA, Loy M: The eosinophil in infection. Clin Rev
 Allergy Immunol 50: 214-227, 2016.
・Yoon J, Ponikau JU, Lawrence CB, et al: Innate antifungal
 immunity of human eosinophils mediated by a beta 2
 integrin, CD11b. J Immunol 181: 2907-2915, 2008.
・Guerra ES, Lee CK, Specht CA, et al: Central role of IL-23
 and IL-17 producing eosinophils as immunomodulatory
 effector cells in acute pulmonary aspergillosis and allergic
 asthma. PLoS Pathog 13: e1006175, 2017.
・Kimura M: Histopathological diagnosis of fungal sinusitis
 and variety of its etiologic fungus. Med Mycol J 58: J127-
 J132, 2017.

東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻3号掲載

F
真菌ヘモリジン
Fungal hemolysin

 ヘモリジンは赤血球を溶血する溶血素で,細菌ではStaphylococcus aureusが産生するα毒素やStrep-tococcuspyogenesが産生するコレステロール依存性細胞溶解毒素(CDC)であるストレプトリジンO などがよく知られている.真菌もヘモリジンを産生することが1930年代から報告されており,Aspergillus fumigatus,A. flavusをはじめ,Candida albicans,Ctyptococcus neoformansなどの病原性酵母を含む複数の真菌でヘモリジン活性が報告されている.真菌ヘモリジンの分類や分泌についての詳細は明らかではないが,ヒラタケのOstreolysinでは、コレステロールとは直接結合しないもののCDC 様の作用を示すことが報告されている.溶血により放出された鉄やgrowth factor を真菌が利用すると考えられており,ヘモリジンは真菌のvirulence factor の一つであることが示唆されている.菌糸の凝集への関与も指摘されているが,Blastomy-cesdermatitidisでは酵母形で溶血活性が高く,C.albicans では菌糸形で活性が高いなど,その作用には不明な点が多い.Wallemia sebiでは不飽和脂肪酸が溶血活性を示すことが示唆されており,ヘモリジン活性にはタンパク質以外に二次代謝産物の関与なども示唆される.

References:
・Nayak AP, et al: Fungal hemolysins, Med Mycol 51: 1-16, 2013.

明治薬科大学感染制御学・市川智恵
日本医真菌学会雑誌57巻2号掲載

フローサイトメトリー
Flow cytometry

 細胞などの浮遊液を流体系の中で,流体学的絞り込みという現象を用いて,細胞を1 つ1 つ流体系の中を通過させ,測定部において,レーザー光を各細胞に照射して得られる光学的,電気的信号により、各細胞の特徴を解析する方法である.フローサイトメトリーに用いる機器として,細胞の特徴を解析するアナライザーと,解析した結果から目的の細胞を分取するセルソーターがある.レーザーを照射した際の前方散乱光からは細胞のサイズを,側方散乱光からは細胞の内部構造の複雑さを反映した情報が得られる.そのほかに,蛍光標識された細胞表面の抗原タンパク質や細胞内に存在するタンパク質に対する抗体で細胞を標識することにより,細胞の生物学的特徴を解析することができる.解析対象は哺乳類の細胞だけではなく,酵母などの微生物やビーズアレイなども含まれる.また,分子生物学的手法との組み合わせた真菌の検出,同定も検討されている.

References:
・Kempf VA, et al: Rapid detection and identification of
 pathogens in blood cultures by fluorescence in situ
 hybridization and flow cytometry. Int J Med Microbiol
 295: 47-55, 2005.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌58巻2号掲載

固定
Fixation

 さまざまな意味を含む用語であるが,ここでは組織学や病理学で用いられる用語として解説する.固定とは,生体から取り出した組織の観察を目的に,自己融解を防止し,可能な限り元の形態を維持するように化学的処理を加えることである.自己融解の原因となる細胞中のたんぱく分解酵素の不活化は,その機序に含まれる.固定は細菌など微生物の増殖も止めるため,腐敗防止を兼ねている.元の形態を維持するために3 つの方法がある.第1 は細胞や組織を構成するたんぱく質や糖鎖の分子間に架橋を形成させ,その分子の移動を阻止するもので,ホルマリンなどのホルムアルデヒド系固定液が使用される.第2 はポリペプチドなど溶出しやすい物質の流出を防止するため,組織に浸透しやすい酸によるたんぱく凝固を用いたもので,ピクリン酸を用いたブアン固定などがある.第3 はアルコール固定やアセトン固定で,それらによってたんぱく分子の水和水が除去されたんぱく凝固が生じる.これら種々の方法には一長一短があり,目的に応じて使い分ける必要がある.良好に固定するためには,組織を固定液が浸透しやすい大きさにしておくべきで,厚さは5 mm 程度までが望ましい.また固定液はホルマリンであれば,組織の体積1 に対してホルマリン20以上が適量であり,固定液が十分でなければ固定が不良となる.

References:
・菅野純:5.固定法1)組織固定法.臨床検査増刊号
 免疫組織・細胞化学検査39:24-26, 1995.
・森谷卓也:2.組織の固定.病理検査室利用ガイド(笹野公伸
 森谷卓也,真鍋俊明編),pp.14-19,文光堂,東京,2004.

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌58巻3号掲載

フィコリン
Ficolin

 N 末端側にコラーゲン様構造,C 末端側にフィブリノーゲン様構造をもつ糖鎖結合タンパク質(レクチン)である.ヒトにおいては,M,L,Hの3 種類のフィコリンが知られている.マウスやブタなどの脊椎動物や無脊椎動物のマボヤにおいても,フィコリン相同分子が同定されている.ヒトフィコリンはマンノース結合レクチンと同様にセリンプロテアーゼであるMASP と複合体を形成し,レクチン経路を介して補体系を活性化する.Aspergillus菌体にフィコリンが結合し,補体の活性化を介して食細胞を活性化すること,侵襲性アスペルギルス症患者の肺胞洗浄液中に増加すること,など真菌の感染免疫において注目される分子である.

References:
・Runza VL, Schwaeble W, Männel DN: Ficolins: novel
 pattern recognition molecules of the innate immune
 response. Immunobiology 213: 297-306, 2008.
・Rosbjerg A, Genster N, Pilely K, et al: Complementary roles
 of the classical and lectin complement pathways in the
 defense against Aspergillus fumigatus. Front Immunol 7:
 473, 2016.

東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻4号掲載

G
肉芽腫
Granuloma

 組織球およびそれが変化した細胞が集簇したものを肉芽腫という.通常は多数の細胞が集簇して結節状となり周囲組織から区別できる.組織球のうちやや大きい核と豊富な細胞質を持ち互いに上皮のように連結するものは類上皮細胞と呼ばれ,結核肉芽腫やサルコイドーシスの肉芽腫の主な構成細胞である.脂肪を貪食して細胞質が明るい泡沫状となった組織球が集簇すると黄色肉芽腫と呼ばれる.組織球が融合すると,ラングハンス型・異物型・ツートン型などの種々な多核巨細胞となり肉芽腫内に認められる.結核では壊死を囲むように肉芽腫が見られ,最外周をリンパ球浸潤が囲む.真菌感染で見られる肉芽腫は肉芽腫の中心に膿瘍を伴う化膿性肉芽腫や異物型巨細胞が見られる異物型肉芽腫が多い.肉芽腫としばしば混同される肉芽組織という用語は,毛細血管と線維芽細胞の増殖からなり潰瘍などの損傷部を修復する組織である.

References:
・Ackerman AB, et al. Histologic diagnosis of inflammatory
 skin diseases, 3 rd ed. Ardor Scribendi, New York
 (2005)

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌55巻3号掲載

ゲノム編集
Genome editing

 部位特異的なDNA 切断酵素を利用して,自由自在に標的遺伝子を改変する技術である.ZFN(Zinc-Finger Nuclease),TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease),CRISPR (Clustered Regularly Interspaced Short PalindromicRepeats)/Cas9(Crispr ASsociated protein 9)がおもに利用されている.CRISPR/Cas9 では,ガイドRNA とCas9蛋白質から構成される複合体により,ガイドRNA の相補配列特異的な部位に結合し,二本鎖DNA を切断する.真菌では,出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeをはじめとして,Aspergillus fumigatus,Candida albicans,Cryptococcusneoformans などの病原真菌を含むさまざまな菌種に応用されている.

References:
・Deng H, et al: CRISPR system in filamentous fungi: current
 achievements and future directions. Gene 627, 212-221,
 2017.
・Shi TQ, et al: CRISPR/Cas9-based genome editing of the
 filamentous fungi: the state of the art. Appl Microbiol
 Biotechnol 101, 7435-7443, 2017.
・Burkhart CN, et al: Dermatophytoma: Recalcitrance to
 treatment because of existence of fungal biofilm. J Am
 Acad Dermatol 47, 629-631, 2002.

帝京大学ちば総合医療センター皮膚科・佐藤友隆


日本医真菌学会雑誌59巻1号掲載

H
ハイコンテント解析法
High-content analysis

 生細胞を顕微鏡下でカメラ撮影し,さまざまな定量的データを得る手法.電動顕微鏡,マルチパラメーターの画像処理プログラム,蛍光プローブなどの視覚化ツールを用い,細胞集団から定量データを抽出し解析する.細胞を自然のままで解析することができ,形態変化,複数のタンパク質の発現の経時変化,分布,相互作用など多面的なデータとして得ることができる.さまざまな化合物のハイスループット活性スクリーニングや免疫細胞と病原体との相互作用解析に応用されている.

References:
・Boutros M, Heigwer F, Laufer C: Microscopy-based highcontent
 screening. Cell 163: 1314-1325, 2015.
・Bojarczuk A, Miller KA, Hotham R, et al: Cryptococcus
 neoformans intracellular proliferation and capsule size
 determines early macrophage control of infection. Sci Rep
 6: 21489, 2016.

東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻4号掲載

I
国際藻類・菌類・植物命名規約
International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants, ICN

 学名は,他の研究者やコミュニティーの中で当該のグループの共有し,その実体を正確に情報伝達する基本であり,一定のルール(国際命名規約,InternationalCode of Nomenclature)に則って与えられている.細菌は国際細菌命名規約,動物は国際動物命名規約,そして菌類は国際藻類・菌類・植物命名規約に従う.それぞれの規約は対象とする生物によって多少異なるが以下の3 つの原則,@その群の中に命名基準(nomenclaturaltype)を設ける,A先取権(priority)の原則,B種の学名(scientific name)はリンネが確立した二名法(binominal nomenclature)に従い,属名(genus name)と種形容語(species epithet)から成る,は共通である.国際命名規約は定期的に見直し・改正が行われており,2011年メルボルンで行われた国際植物学会において,菌類が従う「国際植物命名規約」の正式名称が「国際藻類・菌類・植物命名規約」に変更された.それ以外にも,電子出版のみでの出版が有効発表として認められる,など大きなトピックスがあった. 中でも研究コミュニティーに大きい影響を及ぼすのが,従来は子嚢菌類と担子菌類に認められていた「二重命名法(dual nomenclature)」が廃止され「統一命名法(unitary nomenclature)」が採用されたことである.新しい学名リストは,2017年の国際植物会議で決定される予定である.

References:
・Nature News (2011年7月20日)
・国際藻類・菌類・植物命名規約
 http://www.iapt-taxon.org/nomen/main.php

理化学研究所バイオリソースセンター・高島昌子
日本医真菌学会雑誌55巻3号掲載

インフラマソーム
Inflammasomes

 宿主細胞は,病原微生物の侵入に対し,パターン認識受容体を介した認識機構により,速やかに生体防御反応を発揮し,TNF-α,IL-1βなどの炎症性サイトカイン産生を示す.IL-1βやIl-18 は多様な生理活性を示す炎症性サイトカインであり,微生物などの刺激により前駆型が産生され,活性型が分泌されるには,前駆体からの活性型の切断が必要であるとされている.インフラマソームはIL-1βおよびIL-18 産生を制御する細胞内のタンパク質複合体であり,刺激を認識する受容体であるNLRP,apoptosis-associated speck-like proteincontaining a caspase recruitment domain(ASC),カスパーゼ-1 からなる.インフラマソームを活性化するものとして,細菌,ウイルス,真菌(Candida albicans),尿酸結晶,ATP などが知られている.また,インフラマソームの異常は自己炎症症候群の発症に関与していることが報告されている.

References:
・Martinon F et al., Cell 117: 561-74, 2004.
・Franchi L et al., Eur J Immunol. 40: 611-5, 2010.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻1号掲載

半導体シークエンシング法
Ion semiconductor sequencing

 真菌ゲノム解析や網羅的発現解析でも用いられる大規模シークエンシングで用いられている塩基配列決定法の一つである.パイロシークエンシングと類似しているが,その検出方法がユニークである. 具体的には以下のとおりである.鋳型となるDNA にプライマーが結合してポリメラーゼにより伸長反応を行い,伸長反応では4 種のデオキシリボヌクレオチドのうち,1 種類だけ添加する部分はパイロシークエンシングと同じである.このとき伸長が起こった部分ではピロリン酸と同時にプロトンが生じる.このとき微小なpH の変化が生じ,これを半導体で検出することにより,どの塩基が取り込まれたかを知ることができる.


帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌56巻2号掲載

アイソレーションチップ
isolation chip(iChip)

 iChip は難培養微生物のハイスループット培養用に開発されたチップである.384 個の極小のdiffusionchamber を有する構造で,1 つのチャンバーに1 つの菌体が入る程度に希釈したサンプルを入れ,浸透膜で塞ぎ,海水や土壌中など微生物本来の生育環境に戻して培養する.浸透膜は微生物の増殖に必要な栄養や増殖因子を通すため,チャンバー内では難培養微生物も増殖する.一般的な平板培地で培養した場合と比較して,iChip を用いることで多数の微生物が増殖することが報告されている.また,一度増殖すればin vitroで増殖可能な細菌種も多いことが報告されており,難培養微生物の研究における有用性が期待されている.

References:
・Nichols D, et al: Use of ichip for high-throughput in
 situ cultivation of“uncultivable”microbial species,
 Appl Environ Microbiol 76: 2445-2450, 2010.
・Ling LL, et al: A new antibiotic kills pathogens without
 detectable resistance, Nature 517: 455-459, 2015.

明治薬科大学感染制御学・市川智恵
日本医真菌学会雑誌57巻2号掲載

墨汁法
India ink method

 微生物と墨汁またはインディアインクの混和後,顕微鏡で観察し,墨汁またはインディアインクの暗黒背景の中に埋もれず染色されない微生物を検出する方法である.最も利用されているのは,クリプトコックス髄膜炎が疑われる場合で,髄液に対して行われているものである.具体的方法は,採取した髄液あるいはその沈査を墨汁あるいはインディアインクと混合し,その一部をスライドガラス上にとり,その上からそっとカバーガラスを載せ,通常の光学顕微鏡で観察する.髄液などをスライドガラスにとり,そこに墨汁やインディアインクを重層する方法もある.クリプトコックス細胞の周囲には厚い莢膜があり,これにより墨汁やインディアインクははじかれる.そのため光源からの光がその部分だけを通り明るく,背景は墨汁やインディアインクのため暗黒である(Fig. 1).髄液以外では,気管支分泌物や気管支肺胞洗浄液にも応用されることがある.クリプトコックス以外では,莢膜を有する細菌の観察に用いられる.

References:
・Larone DH: cryptococcosis. In Medically Important
 Fungi, 5th ed. pp57 & 411, ASM press, Washington,
 DC, 2011.
・山口英世:A 直接鏡検法.病原真菌と真菌症.pp.66-67,
 南山堂,東京,2003.

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友



日本医真菌学会雑誌58巻4号掲載

自然リンパ球
Innate lymphoid cells

 抗原特異的な受容体を持つT 細胞やB 細胞とは異なり,抗原受容体を持たず自然免疫で働くリンパ球を自然リンパ球(ILC)という.2013年にSpitsらの提案により,サイトカインの産生パターンなど機能的な観点から3 つのグループに分類されている.自然リンパ球の活性化はサイトカインによって誘導される.ILC1 はT-bet を発現し,IFN-γを産生する.ILC2 はGATA-3 を発現し,IL-5,IL-13 などを産生する.ILC3 はRORγt を発現し,IL-17A,IL-22 などを産生する.ILC2 はアレルギー応答に関与していると考えられており,動物モデルを用いた検討において真菌が誘発するアレルギー応答にも関与していることが示唆されている.

References:
・Spits H, Artis D, Colonna M, et al: Innate lymphoid cells - a
 proposal for uniform nomenclature. Nat Rev Immunol 13:
 145-149, 2013.
・Morita H, Moro K, Koyasu S: Innate lymphoid cells in
 allergic and nonallergic inflammation. J Allergy Clin
 Immunol 138: 1253-1264, 2016.

東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻3号掲載

L
LAMP法
LAMPmethod

 Loop-Mediated Isothermal Amplification の略であり,迅速・簡易・精確な遺伝子増幅法である.標的遺伝子の6 つの領域に対して4 種類のプライマーを設計する.サンプルとなる遺伝子,プライマー,鎖置換型DNA 合成酵素,基質を混合し,65℃付近の一定温度で保温することによって反応が進み,検出までの行程を1ステップで行うことができる.増幅効率が高く,15 分〜1 時間で109-1010倍に増幅することができる.特異性も高く,増幅産物の有無で目的とする標的遺伝子配列の有無を判定することができる.増幅の判定は,副産物であるピロリン酸マグネシウムによる白濁もしくはカルセインを用いた蛍光によって,目視で可能である.カンジダ検出用のキットが販売されている.他にもさまざまな真菌に対するLAMP 法の開発が報告されている.非常に高感度な検出法のため,増幅産物による検査室内汚染に注意する必要がある.

References:
・Notomi T, et al. Nucleic Acids Res 28 (12): e63 (2000)
・Søe MJ, et al. Clin. Chem 59(2): 436-439 (2013)

国立感染症研究所真菌部・梅山隆,大野秀明
日本医真菌学会雑誌55巻2号掲載

ラテラルフローイムノアッセイ
Lateral flow immunoassay

 イムノクロマトグラフィーアッセイともよばれる.抗原または抗体を含む検体試料をセルロースなどのメンブレン膜上で毛細管現象により移動させながら,さまざまな抗原抗体反応を行わせ,簡便に結果判定を行えるようにした免疫測定法である.感染症診断をはじめ,妊娠検査など多くの項目において応用され,広く用いられている.特別な測定装置を用いなくても,短時間で,目視で簡便に診断できる方法である.真菌感染症診断においても気管支肺胞洗浄液においてガラクトマンナン抗原を検出する侵襲性肺アスペルギルス症の診断,莢膜成分であるグルクロノキシロマンナンを検出するクリプトコックス症の診断への応用も検討されている.

References:
・Miceli MH, et al: Performance of lateral flow device and
 galactomannan for the detection of Aspergillus
 species in bronchoalveolar fluid of patients at risk for
 invasive pulmonary aspergillosis. Mycoses 58: 368-74, 2015.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻3号掲載

ラカジオーシス(ロボミコーシス,ロボ病,ケロイド状分芽菌症)
Lacaziosis (Lobomycosis, Lobo7s disease, keloidal blastomycosis)

 ラカジオーシス(ロボミコーシス)は南米アマゾン地域に限局した風土病で,掻痒感や疼痛を伴った難治性ケロイド状慢性皮膚肉芽腫を特徴とする.原因菌は培養困難なLacazia loboiである.発症は男性に多く,感染から発症までは数ヵ月から数十年を要する.抗真菌薬の投与,外科的切除などの治療による完治は困難で,寛解再燃を繰り返す.特徴は顕著な結節性葉状集塊として現れる肉芽腫で,真皮や皮下組織に酵母様真菌の菌塊およびその断片を認め,周囲に組織球,多核巨細胞などによる顕著な細胞浸潤を認める.菌体は直径約10 μm 前後の球体で,連珠状もしく多極性出芽を示す.病理組織での菌体検出はグロコット染色が推奨される.かつてイルカもラカジオーシスの宿主とされていたが,原因菌の遺伝子型がパラコクシジオイデス症原因菌のParacocci-dioides brasiliensisに一致することから,2016年に“クジラ型パラコクシジオイデス症(paracoccidioidomy-cosisceti)”とされ,わが国でもイルカ症例が報告されている(Fig. 1).

References:
・Vilela R, Bossart GD, St. Leger JA, et al: Cutaneous  granulomas in dolphins caused by novel uncultivated  Paracoccidioides brasiliensis. Emerg Infect Dis 22:  2063-2069, 2016.

琉球大学農学部家畜衛生学研究室・佐野文子


日本医真菌学会雑誌58巻3号掲載

M
マイクロバイオーム
Microbiome

 ヒトの腸管内,口腔内,皮膚には,膨大な数の細菌が生存している.それらの生存する微生物全体をマイクロバイオームという.これまでは培養分離などで限界があったが,メタゲノム解析(細菌叢から直接調製したゲノムをランダムにシーケンスして,そこに存在する遺伝子を同定する方法)により網羅的な解析が可能になってきた.それらマイクロバイオームは宿主への栄養供給や感染防御に有益な面もあるが,炎症性腸疾患や代謝性疾患に関わっていることが示唆されている.マイクロバイオームの検討は細菌が中心であったが,真菌の腸管内,皮膚における存在,Mycobiome(マイコバイオーム)も注目されてきている.Candida は健常成人30〜70%の消化管粘膜に存在し,Malassezia やCandida が皮膚に存在することが報告されている.マイクロバイオームと疾患の関連性が示唆されているクローン病患者では,抗S. cerevisiae抗体(ASCA)価が上昇し,動物モデルにおいて,真菌PAMPs であるβ-グルカンに対する受容体欠損が病態の増悪化に関与することが報告されている.また,皮膚においても,アトピー性皮膚炎や頭皮のふけとの関連性が報告されている.

References:Human Microbiome Project Consortium.
Nature, 486, 207-14 (2012).
Iliev ID et al., Science. 336, 1314-7 (2012).

東京薬大・石橋健一
日本医真菌学会雑誌55巻1号掲載

MLST
Multilocus sequence typing

 真菌あるいは細菌の株型別を行う分子疫学的解析法である.具体的には,複数(通常は7 種類位)の生存に必要な遺伝子(ハウスキーピング遺伝子)の400〜500 bpのDNA塩基配列を決定し,その配列の差異(allele)のプロファイルよりST(Sequence Type)番号をつくる.主要な病原菌は解析用のウェーブサイト(www.mlst.net, www.pubmlst.org)が開設されている.
 MLST 法では,ハウスキーピング遺伝子を用いるのが基本であるが,株の識別解像度を上げるために変異の高い遺伝子をあえて解析に加えることもある.例えば,Cryptotoccus neoformans / C. gattiiのMLST 解析には,CAP59, GPD1, LAC1, PLB1, SOD1, URA5 のハウスキーピング遺伝子に加えて,rRNA のIGS1 領域を加えている.
 その他の分子疫学的解析法にPFGE 法,RAPD 法あるいはAFLP 法があるが,再現性,簡便性やデーターベースの共有化の点からはMLST 法のほうが汎用性が高い.これは,DNA 塩基配列が簡便かつ安価に解析できるようになったことも大きい.

References:
・Meyer W et al: Medical Mycol 47: 561-570, 2009.

張音実・杉田隆(明治薬科大学微生物学教室)
日本医真菌学会雑誌55巻4号掲載

ミエロペルオキシダーゼ
Myeloperoxidase, MPO

 感染時において,食細胞は活性酸素種を放出して殺菌する.ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は,過酸化水素(H2O2)と塩素イオン(Cl-)から次亜塩素酸(HOCl)を産生する.MPO は好中球のアズール(1次)顆粒に存在し,単球などのミエロイド系(骨髄系)細胞にも検出されることが知られている.荒谷らは,MPO ノックアウトマウスを作製し,個体レベルでのMPO の生体防御における役割を検討し,Candida albicans,Aspergillusfumigatus,Cryptococcus neoformansの肺感染において,易感染性を示すことを報告している.また,ヒトにおいてもMPO 欠損が報告されている.その単離好中球はCandida 殺菌能が低下していることが報告されていることからも,真菌感染に対するMPO の重要性が示唆されている.また,動脈硬化などの慢性炎症の組織傷害にも関与していることが報告されている.

References:
・Klebanoff SJ: Myeloperoxidase: friend and foe.
 J Leukoc Biol 77: 598-625, 2005.
・Aratani Y: Role of myeloperoxidase in the host defense
 against fungal infection. Jpn J Med Mycol 47: 195-199,2006.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻4号掲載

マンノース結合レクチン
mannose-binding lectin

 マンノース結合レクチン(MBL)は,自然免疫応答に重要な動物レクチンで,ウサギの肝臓から単離され,その後,ヒトおよびラットの肝臓からも単離された.Cタイプレクチンに属し,カルシウムイオン存在下に,マンノース,N-アセチルグルコサミンを持つ糖鎖と結合する.MBL は,NH2末端のシステインに富む領域,コラーゲン様ドメイン,COOH 末端側の糖鎖認識ドメインから成る32kDa のポリペプチドの多量体によって構成されている.糖鎖リガンドへ結合し,MASPs(MBLassociatedserine proteases)と複合体を形成し,補体活性化反応を引き起こす.また,食細胞の貪食機能を亢進させるオプソニンとして作用する.MBL は,Candida albicans,Aspergillus fumigatus,Cryptococcusneoformansに結合することが報告されており,それらの感染防御に関与していることが示唆されている.

References:
・Kawasaki T, et al: Isolation and characterization of a
 mannan-binding protein from rabbit liver, Biochem
 Biophys Res Commun 81: 1018-24, 1978.
・Neth O, et al: Mannose-binding lectin binds to a range
 of clinically relevant microorganisms and promotes
 complement deposition, Infect Immun 68: 688-93, 2000.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻1号掲載

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計
MALDI-TOF/MS:Matrix assisted laser desorption / ionization-time-of-flight mass spectrometer

 質量分析は,試料のイオン化,イオンの分離,イオンの検出のステップからなる.MALDI によるイオン化法では,マトリックスという有機化合物を用いて,イオン化が促進され,試料の分解を防ぎながら,イオン化することができる.TOF はイオン化された成分を分離する方法であり,生成したイオンの質量電荷比によって,電場をかけた真空中の飛行時間が異なることにより分離される.分離されたイオンの検出器までの到達時間に基づき,質量が測定される.微生物細胞またはその成分を試料とし,MALDI-TOF/MS を測定し,リボソームタンパク質などに由来するピークパターンをデータベースのものと比較することによって,これまでの微生物同定と比較し,短時間でランニングコストが安価である同定方法として検討されている.Candida,Aspergillus,Cryptococcus,Fusariumなどの同定に関する報告がある.

References:
・Sendid B, et al: Evaluation of MALDI-TOF mass
 spectrometry for the identification of medicallyimportant
 yeasts in the clinical laboratories of Dijon
 and Lille hospitals, Med Mycol 51: 25-32, 2013.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻2号掲載

モノクローナル抗体
Monoclonal antibody

 1つの抗体産生細胞クローンは唯一の構造を持った免疫グロブリンを産生する.1975 年Milstein とKohlerは、細胞融合法を免疫学の分野に応用し、モノクローナル抗体の作製に成功した.抗体産生細胞クローンとミエローマを細胞融合させ、不死化された抗体産生細胞、ハイブリドーマを作製し、その産生細胞から単一のアイソタイプで単一の特異性を有する抗体すなわちモノクローナル抗体を大量に産生させることができるようになった.モノクローナル抗体は、その特異性および安定性にすぐれ、治療や診断などの医学領域のみならず、多岐に応用されてきた.真菌感染防御においてもモノクローナル抗体の検討が行われてきており,グルクロノキシロマンナン、β-マンナン、エノラーゼなどの酵素やタンパク質に対するモノクローナル抗体の報告がされ、クリプトコックス,カンジダ,ヒストプラズマ,パラコクシジオオイデスの感染防御へ寄与する可能性が報告されている.

References:
・Köhler G, et al: Continuous cultures of fused cells
 secreting antibody of predefined specificity. Nature
 256: 495-497, 1975.
・Elluru SR, et al: The protective role of immunoglobulins
 in fungal infections and inflammation. Semin
 Immunopathol 37: 187-197, 2015.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻4号掲載

メラニン
Melanin

 真菌メラニンは細胞壁に存在し,CryptococcusPara-coccidioidesなどの病原性にかかわる分子として着目されている.合成経路は,1,8-dihydroxynaphthalene(DHN)中間体を介するものとL-3,4-dihydroxyphenylalanie(L-DOPA)からのものの2 経路が知られている.作用メカニズムについて複数の報告があり,メラニンはアンホテリシンBやカスポファンジンの抗真菌薬感受性を低下させる.さらに,細胞レベルでは,マクロファージの食細胞機能やサイトカイン産生機能を抑制し,好中球のディフェンシンや他の抗菌ペプチドや活性酸素種の毒性を減弱させる.また,動物モデルではメラニンの病原因子としての寄与も検討されている.

References:
・Nosanchuk JD, Casadevall A: Impact of melanin on
 microbial virulence and clinical resistance to antimicrobial
 compounds. Antimicrob Agents Chemother 50: 3519-3528, 2006.

東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻2号掲載

N
好中球細胞外トラップ
Neutrophil Extracellular Traps(NETs)

 好中球は,生体防御系の中心となる細胞の一つであり,常に骨髄で生産され末梢に供給されている.末梢血中の好中球は局所の炎症や感染を鋭敏に感知し,速やかに局所に動員される.好中球は,貪食作用,活性酸素産生,次亜ハロゲン酸産生,顆粒中に含まれる抗菌成分など,様々な殺菌機構を用いて生体防御に寄与している.さらに,最近,活性化された好中球は,好中球細胞外トラップ(Neutrophil Extracellular Traps(NETs))と呼ばれる構造物を細胞外に放出することが明らかとなってきた.
 NETs は,DNA,ヒストン,ミエロペルオキシダーゼ,好中球エラスターゼなどの顆粒成分を含む網目状構造物であり,細菌や真菌などの微生物病原体を補足し,抗菌作用に関与していることが明らかにされてきた.まさに「投網」で病原体を一網打尽にするといったイメージを連想させる名称である.NETs 形成は,PMA や菌体成分であるリポポリサッカライド,グラム陽性菌,グラム陰性菌,真菌(Candida albicans, Aspergillus fumigatus)によって誘導されることが見出されつつあり,今後も感染免疫に関わる多くの事例が報告されるものと思われる.また,全身性エリテマトーデスや血管炎などの自己免疫疾患における,好中球の有害作用にもNETs形成が関与していることが示唆されている.

References:
・Brinkmann V et al., J Cell Biol 198: 773-783, 2012.
・Brinkmann V et al., Science 303: 1532-1535, 2004.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻1号掲載

次世代シークエンス解析
Next generation sequencing

 塩基配列決定法としてジデオキシ法(サンガー法)が広く使用されてきたが,近年になって大規模に塩基配列を決定できる技術が開発されて,真菌をはじめとする微生物種からヒトにいたるまでのゲノムレベルでの塩基配列解析に用いられている.これまでのジデオキシ法とは異なる原理そして種々の検出方法を用いたシークエンサーが世に出ている.初期にはリード(一続きの決定された塩基配列)あたりの解読長が短かったが,現在では10 キロベースを超えるような塩基配列決定も可能となってきている.

帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌56巻2号掲載

次世代シーケンシング
NGS: Next Generation Sequencing

 塩基配列を高速に読み出せる装置を用いた新しい解析方法.ランダムに切断された数千万〜数億種類のDNA 断片の塩基配列を同時並行で決定することができる.それにより,1 回のアッセイにつき100〜1000 億塩基対の配列を高い精度で決定できる.全ゲノム解析,エピゲノム解析,トランスクリプトーム解析(RNA シーケンスやsmall RNA 解析)などと応用範囲が広い.Illumina 社のMiSeq やHiSeq,ThermoFishcerScientific社のIon Torrentなどの10〜300 bp の比較的短いリード長を解析する装置や,Pacific Biosciences社のPacBio Sequel,Oxford Nanopore Technologies 社のMinION などの平均10〜20 kb の長鎖配列を解読できる装置がある.

References:
・Zoll J, et al: Next-generation Sequencing in the Mycology
 Lab. Curr Fungal Infect Rep 10, 37-42, 2016.
・Giordano F, et al: De novo yeast genome assemblies from
 MinION, PacBio and MiSeq platforms. Sci Rep 7, 3935,
 2017.

国立感染症研究所真菌部・梅山隆
日本医真菌学会雑誌59巻1号掲載

ナチュラルキラー細胞
Natural killer cell

 1975年にKiessling とHerberman によって発見された.細胞傷害活性を有し,CD3 陰性,TCR 陰性の大型リンパ球である.ヒト末梢血リンパ球の5〜10%を占め,脾臓や骨髄にも存在する.自然免疫を担う細胞として考えられ,事前の刺激なしに,in vitroおよびin vivoで腫瘍細胞を傷害する細胞である.細胞傷害活性は,顆粒に蓄えられているパーフォリンやグランザイムを介して引き起こされる.また,抗体にてオプソニン化されたターゲットに抗体依存性細胞傷害(ADCC)を起こす.さらには,さまざまな病原体に対する宿主応答にもかかわることが知られている.真菌であるCan-dida,Aspergillus,Cryptococcusに対しても傷害活性を示し,それらに対する宿主応答にかかわっている.それには,細胞傷害分子による直接的な抗真菌活性だけではなく,サイトカイン産生を介した間接的な抗真菌作用を示す.

References:
・Schmidt S, Tramsen L, Lehrnbecher T: Natural killer cells
 in antifungal immunity. Front Immunol 22: 1623, 2017.

東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻2号掲載

O
オミックス解析
Omics analysis

 末尾に-ome がつく生物にある各階層,たとえばゲノム,プロテオームなど物質全体の変動を探索し,生命現象を網羅的に解析することをオミックス解析という.遺伝子であればゲノミクス,転写物であればトランスクリプトミクス,タンパク質であればプロテオミクス,代謝物であればメタボロミクスなどがある.それぞれの解析対象によって,次世代シーケンサー,マイクロアレイ,質量分析計,核磁気共鳴装置などを用い解析される.真菌感染症においても,感染時の真菌に対する宿主の応答や病原性真菌自体の解析にオミックス解析のアプローチが検討され,新たな治療や診断方法の発見が期待されている.

References:
・Culibrk L, et al: Systems biology approaches for hostfungal
 interactions: an expanding multi-omics fron-tier.
 OMICS 20: 127-138, 2016.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌58巻1号掲載

P
病原関連分子パターン
Pathogen-associated molecular patterns

 宿主など高等多細胞生物にはない,ウイルス,真菌,細菌,寄生体などの病原体に存在する構造の分子パターンをいう.PAMPs (pathogen-associated molecular patterns)とも呼ばれる.真菌におけるPAMPs は,マンナン,グルカン,キチンなどが知られている.細胞は病原体に対する直接的なパターン認識を用いていることが1989 年にJaneway によって提案された.PAMPsは宿主の自然免疫に関わるパターン認識受容体(Patternrecognition receptors, PRRs)により認識され,シグナル伝達を引き起こし,病原体に対する免疫応答を引き起こす.

References:Kumar H et al., Int Rev Immunol. 30, 16-34 (2011)
Bourgeois C et al., Front Cell Infect Microbiol. 2: 142. doi:
10. 3389/fcimb. 2012. 00142 (2012)

東京薬大・石橋健一
日本医真菌学会雑誌55巻1号掲載

系統樹
Phylogenetic tree

 系統樹とは,生物の持つさまざまな情報(表現性状)を基に,種や集団の進化の道筋を推定するために用いる「樹」を指す.以前は形態学的な特徴や,アイソザイムの電気泳動による解析パターンを基に系統樹の作成が行われていたが,分子生物学的手法の発展により,近年では特定の遺伝子の核酸配列やアミノ酸配列が情報として盛んに用いられるようになった.
 系統樹作成において最初に行うのは多重配列アラインメントである.そして対応する塩基もしくは残基の間に観察される変異の数や種類をもとに,系統関係の推定を行う.系統関係の推定に多く用いられるのは「距離行列法(distance matrix method」,「最大節約法(maximumparsimony method)」および「最尤法(maximumlikelihood method)」である.ブートストラップ法は,得られた樹形の枝の信頼度を検証するための解析である.
 なお,系統関係の推定に際しては,上記の3つの手法のうち少なくとも2 つを用いて同様の結果が得られることを確認することが多い.

References:
・根井正利著, 五條堀孝, 斎藤成也訳:分子進化遺伝学,培風館, 東京, 1990年(初版)
・David W. Mount 著, 岡崎康司, 坊農秀雅監訳:バイオインフォマティクス
 第2版,メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京, 2005年.

高島昌子(理化学研究所バイオリソースセンター)
日本医真菌学会雑誌55巻4号掲載

パイロシークエンシング法
Pyrosequencing

 真菌ゲノム解析や網羅的発現解析でも用いられる大規模シークエンシングで用いられている塩基配列決定法の一つである.Mostafa RonaghiとPål Nyrén らによって開発された1).Pål Nyrén によれば,1986 年1 月に本法を思いついたと記述している2). 具体的には以下のとおりである.鋳型となるDNA にプライマーが結合してポリメラーゼにより伸長反応を行う部分は同じだが,伸長反応では4 種のデオキシリボヌクレオチドのうち,1 種類だけ添加する.このとき伸長が起こった部分ではピロリン酸が生じる.この生じたピロリン酸と反応系に添加されたアデノシン-5’-ホスホ硫酸がATP スルフリラーゼ(反応系に添加される)によってATP に変換される.このATP がルシフェラーゼ反応で発光する.この発光を検出することにより,いずれの塩基が取り込まれたかがわかる.4 種類のデオキシリボヌクレオチドを順番に取り込ませ,発光を検出することで塩基配列が決定できる.

References:
1)Ronaghi M, et al: Anal. Biochem 242: 84-89, 1996.
2)Nyrén P, et al: Methods Mol. Biol 373: 1-14, 2007.

帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌56巻2号掲載

薬物動態学/ 薬力学
Pharmacokinetics and pharmacodynamics (PK/PD)

 薬物動態学(Pharmacokinetics: PK)は薬物の用法・用量と生体内での薬物濃度推移の関係を表し,薬力学(Pharmacodynamics: PD)は生体内での薬物の曝露-反応関係の関係を表す.
 抗真菌症薬を含めた抗微生物薬においてPK/PDパラメータ(Cmax/MIC, AUC/MIC,%T>MIC等)は有効性,安全性,耐性化等を関連付け記述・定量化した概念である.
 PK/PDは抗微生物薬の開発や新たな適応症の承認のために行われる非臨床試験や臨床試験において臨床効果を最大限にし,副作用を最小限にするための投与方法を明確にする方法論である.また諸外国やわが国を含む各団体から公表されているブレイクポイントに関しても,PK/PDを参考にしたブレイクポイントが設定されている.
 2016年4 月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016〜2020」が政府閣僚会議から公表され,耐性菌の抑制の観点からもPK/PD理論を応用した適正使用は,ますます重要な意味合いが強くなる.

References:
・Hope W, et al: Pharmacodynamics for antifungal drug
 development: an approach for acceleration, risk minimization
 and demonstration of causality. J Antimicrob
 Chemother 71, 3008-3019, 2016.
・薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020.
 URL:
 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

東京女子医科大学薬剤部・浜田幸宏
日本医真菌学会雑誌58巻3号掲載

Q
クオラムセンシング
Single molecule real time sequencing

 細菌や真菌などの微生物において,細胞集団として相互にコミュニケーションをとるものとして,周囲の菌体密度を感知して集団行動を起こす現象のことをクオラムセンシングという.その機構として,低分子化合物であるオートインデューサー,クオラムセンシング分子と呼ばれるシグナル物質を産生し,周囲の菌体がその物質を受容体で認識し,行動を変化させる.バイオフィルム形成や病原因子の産生などにかかわっていることが知られている.真菌においても,Candidaが産生するFarne-sol,Tyrosol などがクオラムセンシング分子として知られている.

References:
・Albuquerque P, et al: Quorum sensing in fungi - a
 review. Med Mycol 50: 337-345, 2012.
・Fuqua WC, et al: Quorum sensing in bacteria: the
 LuxR-LuxI family of cell density - responsive trans-
 criptional regulators. J Bacteriol 176: 269-275, 1994.

日本医真菌学会雑誌58巻1号掲載

S
一分子リアルタイムシークエンシング法
Single molecule real time sequencing

 略してSMRT とも呼ばれ,一分子のDNA の塩基配列をリアルタイムに決定する方法である.特に10 キロベースを超える塩基配列を決定でき,真菌ゲノム解析などに広く利用されると考えられる. 検出方法は異なる蛍光色素をもつ4種類のデオキシリボヌクレオチドが伸長反応時に取り込まれた際にその蛍光を捕らえるという点では同じであるが,非常に微小なウェルの中で一分子のDNA とポリメラーゼによる反応を行い,伸長反応において取り込まれた塩基の蛍光検出を繰り返すことで塩基配列を決定していく.

帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌56巻2号掲載

表面プラズモン共鳴バイオセンサー
Surface plasmon resonance biosensor

 光をセンサーチップに当てた際の金属薄膜中に表面に発生する表面プラズモン波とエバネッセンス波が共鳴することにより,入射光のエネルギーの一部が減り,反射光が減少する.これは,金属膜表面およびそのごく近傍の質量変化に依存した特定の反射角度においてエネルギーの減少,屈折率の変化が認められる.よって,センサーチップに結合されたリガンドとそれに結合したアナライトの相互作用を検出することができる.表面プラズモン共鳴バイオセンサーは,タンパク質,糖質,核酸,脂質などの生体内分子間の相互作用を標識なしにリアルタイムで測定できる.さらには,相互作用の強さとして,結合定数および解離定数を求めることができる.生体内分子の相互作用に対する基礎研究から病原微生物の検出,診断などの応用が検討されている.

References:
・Bergwerff AA, et al: Surface plasmon resonance
 biosensors for detection of pathogenic microorganisms:
 strategies to secure food and environmental
 safety. J AOAC Int 89: 826-831, 2006.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌58巻2号掲載

T
分類群(タクサ)
Taxon,複数はTaxa

 一定の限界をもつ生物群を分類群(taxon,複数はtaxa)という.われわれが実験室で扱うのは株(strain)で,それぞれの株には種の学名(scientific name)が付されている.種の学名は属名(genus name)と種形容語(species epithet)から成っている.種より上の分類群にも,それぞれ識別のために名前がつけられている.またそれぞれの分類群は階層的になっており階級(rank)がある.この概念的階層体系の基本(界,門,綱,目,科,属,種)は二名法の創設者であるリンネによって築かれた. 菌類の学名の取扱いは国際藻類・菌類・植物命名規約(International Code of Nomenclature for algae,fungi, and plants,ICN)に従っている.従って,新属や新種,新亜種,新変種などの新たな分類群の提唱は,本命名規約に従って行わなければ正式な発表とみなされない. なお,亜種や変種の下になるform や血清型や遺伝子型は分類階級とは認められず,規則も設けられていない.

References:
・長谷川武治, 微生物の分類と同定(上), 学会出版センター,東京, 2002 年
・杉山純多, 菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統, 裳華房, 東京, 2005 年

理化学研究所バイオリソースセンター・高島昌子
日本医真菌学会雑誌55巻3号掲載

Toll 様受容体
Toll-like receptor

 Hoffmann らは,ショウジョウバエの真菌感染防御に寄与する分子Toll を見い出した.Toll 様受容体(TLR)は,Toll のホモログとして哺乳動物から同定された.TLR は病原体に対するパターン認識分子であり,自然免疫系の活性化とサイトカイン誘導に関与する中心的分子である.Beutler らは,グラム陰性菌外膜の主要成分であるリポポリサッカライドに対するマウスの系統差の研究を行っている過程で,不応答性のマウス(C3H/Hej)は,TLR 4 に点変異が起きていることを見い出した.これを契機として,各TLR 分子の欠損マウスが作出され,PAMPs の構造と自然免疫受容体に関する構造と活性に関連性に関する研究が著しく進展した.マウスでは13種類,ヒトでは10 種類のファミリーメンバー分子として知られている.マウスにおいてToll 様受容体のシグナル伝達分子であるMyD88 をノックアウトしたマウスでは,Candida albicans,Aspergillus fumigatusなどの真菌感染に感受性であること,Toll 様受容体はdectin-1 などのC-タイプレクチンと相互作用し機能することが報告されていることから,真菌感染防御に関与することが示唆されている.

References:
・Lemaitre B, et al: The dorsoventral regulatory gene cassette
 spätzle/Toll/cactus controls the potent antifungal response in Drosophila
 adults, Cell 86: 973-83, 1996.
・Poltorak A, et al: Defective LPS signaling in C3H/HeJ and C57BL/10ScCr
 mice: mutations in Tlr4 gene, Science 82: 2085-8, 1998.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻1号掲載