用語解説
A B C D E F G H I L M N O P Q R S T U Other

※著者の所属機関は雑誌掲載時のものになります
A
抗酸性染色
Acid-fast stain

 抗酸菌染色ともいう.結核菌などの抗酸菌を証明する染色法である.真菌関連でこの染色が用いられるのはノカルジアに対してである.ノカルジアは細菌ではあるが菌体が細長いため菌糸様で,抗酸性を示すため本染色が用いられる.抗酸性とは一端細胞壁に入った色素がその後の酸による処理過程で脱色されない性質をいう.抗酸性染色の代表であるチール・ニールセン染色では,ホルマリン固定パラフィン切片の脱パラフィン後,石炭酸フクシンで染色し塩酸アルコールで脱色すると,組織中の抗酸菌以外の部分は脱色され,抗酸菌は脱色されず菌体の赤色調が残存する.石炭酸フクシンの代わりにローダミンおよびオーラミン蛍光色素で染色すると蛍光顕微鏡で黄〜黄橙色の蛍光を発する菌体が確認でき感度が良い.なおノカルジアの抗酸性は弱いため脱色には塩酸アルコールに代えて硫酸水を用いる.

References:
・藤田浩司ら:抗酸菌染色.最新染色法のすべて(水口國雄編),pp.93-98, 医
 歯薬出版, 東京, 2011.
・広井禎之ら:抗酸菌染色とその特異性に関する検討.病理技術 45: 18-20,
 1992.

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌56巻3号掲載

アジアスピロミコーシス
Adiaspiromycosis

 アジアスピロミコーシスは糸状菌Emmonsia 属のEmmonsia parva もしくはEmmonsia crescens によって引き起こされる人獣共通の感染症の1 つである.げっ歯類を中心として動物での症例は非常に多いが,ヒトではこれまでに70 例程度の報告に留まる.これらの真菌は土壌中に存在しており,胞子を吸入することで肺に入ると考えられているが,普遍的に存在するのか,生息地域が限定されているのかは明らかではない.日本では東北以北で野生動物の感染例が報告されている.本菌は肺内で特徴的なアジアスポアという形態を示し(Fig.1:矢印),E. parva, は直径10 から25μm 程度の,E.crescens は直径25 から500μm 程度のアジアスポアを形成する.厚い壁に囲まれた球状をしているが,壁のみを残して内容物が見られない例も多数存在する.これは長期の感染において内部の真菌細胞が消失し,細胞壁のみ残存したと考えられている.その感染機構等は十分な知見が得られていない.

帯広畜産大学・豊留孝仁

日本医真菌学会雑誌58巻4号掲載

凝集反応
Agglutination

 微生物や赤血球などの細胞表面にある抗原分子が,特異的な抗体と反応して大小の凝集塊を形成する反応を凝集反応という.その反応特異性と目視や濁度測定で簡便に反応性を評価できるという点から,臨床検査で用いられている.可溶性抗原を粒子状の担体に結合させておき,抗原に結合する抗体が存在すると凝集が生じる受身凝集反応や抗体を結合させたラテックス粒子が,試料中の抗原と免疫複合体を形成することで,凝集する凝集比濁法などがある.真菌症診断においても,グルクロノキシロマンナン抗原に対しラテックス凝集法を用いた方法が血清学的診断法として用いられている.

References:
・Wang H, et al: Latex agglutination: diagnose the early Cryptococcus neoformans test of capsular polysac charide antigen. Pak J Pharm Sci 28: 307-11, 2015.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻3号掲載

アルシアンブルー染色
Alcian blue stain

 アルシアンブルー染色は病理組織中の上皮性粘液や間質プロテオグリカンなどの酸性ムコ物質を検出するために実施される染色法である.アルシアンブルー色素は塩基性色素で,組織中の陰性荷電と静電結合する.一般的にpH を2.5 に調整した染色液が用いられ,色素が組織中のカルボキシル基や硫酸基と静電結合する.真菌ではクリプトコックスの莢膜,ブラストミセスやトリコスポロンの細胞壁がアルシアンブルー染色で青色に染色されることから,他の真菌との鑑別に応用されている.さらにクリプトコックスではperiodic acid Schiff(PAS)・アルシアンブルー重染色を行うことで,細胞壁が赤紫色,その周囲の莢膜が青色に色分けされ,真菌細胞の観察および病理組織診断が容易となる(Fig. 1).
References:
・羽山正義, 百瀬正信, 新井慎平:アルシアン青染色.最新染色法のすべて(水口國雄編). pp.143-150. 医歯薬出版, 東京, 2011.
・Chandler FW, Watts JC: Blastomycosis. In Pathologic Diagnosis of Fungal Infections (Chandler FW, Watts JC, eds), pp. 149-160, ASCP press, Chicago, 1987.
・Obana Y, Sano M, Jike T, et al: Differential diagnosis of trichosporonosis using conventional histopathological stains and electron microscopy. Histopathology 56: 372-383, 2010. 橋本市民病院病理診断科・木村雅友 アルシアンブルー染色 Alcian blue stain
Fig. 1. 豊富な莢膜を有するクリプトコックス.
酵母状真菌の細胞壁が赤紫色,その周囲の莢膜が青色に染色されている.

日本医真菌学会雑誌63巻1号掲載

アルファフォールド
AlphaFold

 AlphaFold はDeepMind 社によって開発されたタンパク質の構造予測を行う人工知能プログラムである.最初のAlphaFold(一般にはAlphaFold1 と呼ばれている)は2018年に発表された.2020 年にAlphaFold1 とは完全に異なるモデルに基づいたタンパク質構造予測プログラムとして一般にAlphaFold2 と呼ばれるプログラムが発表された.Alpha-Fold2は,予測手法を評価するコンテスト(CASP14)で驚異的な性能を発揮した.2021 年にその成果が相次いで論文発表された.EMBL-EBI 社とDeepMind 社は共同でヒトおよびCandida albicans を含む20 種の主要な生物のタンパク質についてAlphaFold2 で予測したタンパク質構造データベースを公開している(https://alphafold.ebi.ac.uk/).構造生物学を専門としない他の分野の研究者にも利用がしやすいプログラムがGoogle Colaboratory 上で有志によって公開されており,アミノ酸配列を入力するだけで簡易版を試すことが可能である.さらにSNS などを発端にタンパク質複合体予測への応用が示されており,こちらもGoogle Colaboratory 上から利用が可能となっている.非常に優れたプログラムであるが,膜貫通領域を有するタンパク質の予測に注意を要するなどの点やプログラムにも精度向上の余地があるとされており,今後のさらなる開発が期待されている.
References:
・Senior AW, Evans R, Jumper J, et al: Protein structure prediction using multiple deep neural networks in the 13th Critical Assessment of Protein Structure Prediction(CASP13). Proteins 87: 1141-1148, 2019.
・Jumper J, Evans R, Pritzel A, et al: Highly accurate protein structure prediction with AlphaFold. Nature 596: 583-589, 2021.
・Tunyasuvunakool K, Adler J, Wu Z, et al: Highly accurate protein structure prediction for the human proteome. Nature 596: 590-596, 2021.
帯広畜産大・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌62巻4号掲載

アレルギー性真菌性副鼻腔炎
allergic fungal sinusitis

 アレルギー性真菌性副鼻腔炎はアトピー性素因などを背景にアレルギー機序により生じ,通常は若く(平均22歳)免疫力の保持された宿主に生じる.報告数が少なく病態について不明な点も多い.菌球を生じる腐生性の真菌性副鼻腔炎とは鑑別しなくてはならない.標準的な診断基準としてBent とKuhn によるものや米国アレルギー喘息免疫学会のガイドラインがあり,1型アレルギー,鼻ポリープ,片側性で不均一な信号を示す特徴的なCT画像,好酸球を含んだ粘液および真菌の検出,組織への真菌の浸潤がないことの5項目を満たすものとされている.アレルギー性ムチンと呼ばれる高度に粘稠な副鼻腔内容物の組織像は特徴的で,粘液の中に多数の好酸球が認められ,その崩壊産物であるシャルコーライデン結晶が見られることも多い.真菌は通常粘液内に少数散見されるのみであるため,注意して鏡検する必要がある.培養で分離される真菌は黒色真菌が最も多く,次いでアスペルギルスである.

References:
・Bent JP, 3rd, Kuhn FA. Diagnosis of allergic fungal sinusitis. Otolaryngol Head Neck Surg 111: 580-588, 1994. ・Meltzer EO et al., Rhinosinusitis: Developing guidance for clinical trials. J Allergy Clin Immunol 118: s17-61, 2006.
近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌55巻4号掲載

薬剤耐性
Antimicrobial resistance(AMR)

 2015年に世界保健機関(WHO)からグローバルアクションプランが公表され,2年以内に自国の行動計画を策定するよう求め,その結果を受け日本でも2016年4月にAMR対策アクションプランが公表された.その中の1つに動向調査・監視が盛り込まれており,抗菌薬使用量に関しても多面的に把握し評価する必要がある.
 抗微生物薬(抗真菌薬含む)によって1回量や投与回数が異なるため,使用した抗感染症薬の力価(g)を合計しただけでは異なる成分の抗感染症薬を比較することはできない.そのため,使用量を標準化する必要があり,薬の使用量(力価)を評価するantimicrobial use density(AUD)や使用日数を評価するdays of therapy(DOT)という方法が用いられ,いずれも国際的に使われている指標である.この指標を用いることで,医療機関や地域における状況を客観的に数値として可視化でき,さらに,日本の抗微生物薬使用状況と他国の比較も可能となる.

東京女子医科大学病院・浜田幸宏
京都薬科大学・村木優一
日本医真菌学会雑誌60巻2号掲載

抗菌薬適正使用支援
Antimicrobial stewardship

 近年,多剤耐性アシネトバクターやカルバペネム耐性腸内細菌目細菌など,新たな耐性菌の出現による難治症例の増加が世界的な問題になっている.この原因として医療機関における抗菌薬の不適切な使用が一因であると示唆されている.そのため,世界保健機関は2014 年4 月に全世界に警鐘を鳴らし,薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)グローバルアクションプランが採択された.新規抗微生物薬の開発は世界的に停滞しており,治療選択肢が非常に少ないことから,耐性菌による感染症を発症した場合危機的な状況に陥る.また,耐性菌による感染症は難治化しやすく,入院期間が延長し医療経済的にも莫大な負担を生じることが指摘されている.このような脅威に対し,わが国でも直ちにAMR 対策を講じる必要があり,2016 年4 月に国際的な脅威となる感染症対策関係閣僚会議にて「AMR 対策アクションプンラン」が作成された.
 抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship:AS)とは,感染症専門のチームが個々の患者に対して主治医が抗微生物薬を使用する際,最大限の治療効果を導くと同時に,有害事象をできるだけ最小限にとどめる,最適化のための支援のことである.すなわちAS は感染症診療において耐性菌発生を抑制し,医療コストの削減にもつながる中心的な役割を担っている.2015 年の薬剤耐性菌対策に関する提言では,広域スペクトラム抗菌薬・抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)薬・抗真菌薬の使用については,治療の開始から終了までを対象として,感染症を専門とする医師・薬剤師・検査技師・看護師などが,主治医と協力することで,患者の予後を改善し,耐性菌の出現を抑制することが期待できると述べられている.
Reference:
・厚生労働省:薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

埼玉医科大学総合医療センター感染症科/感染制御科・川村隆之
埼玉医科大学総合医療センター感染症科/感染制御科・大野秀明
日本医真菌学会雑誌63巻4号掲載

抗微生物薬使用密度と抗微生物薬使用日数
Antimicrobial use density(AUD)and Days of therapy(DOT)

 AUDやDOTは病院全体や病棟など特定の期間に滞在したヒトに対して使用された抗微生物薬の曝露状況を示す指標である.AUDは抗微生物薬の使用量を力価換算(総グラム数)し,世界保健機関(WHO)が定める定義された維持投与量(DDD: defined daily dose)で除し,DOTは,使用量ではなく投与された日数を集計に使用する.AUD,DOTともに求めた値を使用された場所(病院や病棟など)の在院患者延数で除し,100あるいは1,000を乗じて100床・日や1,000患者・日に補正する.
 AUDは個別の患者情報は不要なため集計が比較的容易である.この方法は世界各国で用いられており,AUDによって施設別や国別の抗微生物薬使用状況の比較が可能となる.DOTは抗微生物薬の用法・用量にかかわらず,投与された日数を集計するため,AUDと異なり,1日投与量の影響を受けない.しかしながら,DOTは抗微生物薬の使用日数を集計するため,症例ごとの投与データが必要となる.

References:
・抗菌薬使用量集計マニュアル作成チーム:抗菌薬使用量集計マニュアル.感染症教育コンソーシアム,2018.
 https://www.jshp.or.jp/cont/19/0117-1.pdf
東京女子医科大学病院・浜田幸宏
京都薬科大学・村木優一
日本医真菌学会雑誌60巻2号掲載

アスペルギローマ
Aspergilloma

 菌球型アスペルギルス症と同義である.陳旧性肺結核などにより生じた空洞内や種々の疾患により拡張した気管支内に経気道的にアスペルギルスが侵入し,そこで増殖した大量の真菌がボール状の菌塊である菌球を形成するアスペルギルス症の1 病型である.腐生性の増殖であり,組織への真菌の侵襲は認められないが,慢性壊死性肺アスペルギルス症へ移行する症例も経験されている.胸部画像上,空洞内に円形の菌球陰影やそれを取り巻く含気層が観察される.血清学的検査でアスペルギルスに対する沈降抗体が陽性となる.無症状のことも多いが,喀血などの場合には病変部の切除も考慮される.菌球は無数の増殖菌糸からなるが,アスペルギルスに特徴的な分生子頭の形成が見られ,シュウ酸カルシウム結晶を伴うことがある.

References:
・安藤常浩:肺アスペルギルス症の臨床像と病理. 深在性真菌症,
 病理診断アップデートレビュー(渋谷和俊, 久米光監修),
 pp.23-31, 協和企画, 東京, 2012.

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌55巻4号掲載

星状(小)体
Asteroid body

 星芒(小)体ともいう.スポロトリコーシスの組織標本で,膿瘍内の菌体周囲を好酸性(HE 染色で赤い)物質が取り囲みそれが周囲へ放射状に伸びて星芒状に見えることから星状体あるいは星芒体と呼ばれている.この好酸性物質はIgG などを含む抗原抗体複合物や血漿成分からなる.同様の物質が組織中で糸状菌,放線菌,寄生虫幼虫などを囲むように認められSplendore-Hoeppli現象と呼ばれているが,星状体もこの現象の1つである.なお,サルコイドーシスや数種の感染症の組織標本で,組織球系巨細胞の細胞質に認められる好酸性線維状物と空胞が交互に並んで星状に見える構造も星状体と同じ名前で呼ばれているがまったく異なるものであり混乱しないように注意したい.

References:
・Rodriguez G, et al. Am J Dermatopathol 20: 246-249 (1998)
・Kwon-Chung KJ, et al. Medical Mycology. Lea & Febiger, Malvern, USA,
  (1992)

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌55巻3号掲載

自己誘導因子
Auto inducer

 自己誘導因子(オートインデューサー:AI)はシグナル物質である.人類のみでなく,微生物の世界でも密という因子が個々の行動に重要であることが知られている.微生物における細胞間ケミカルコミュニケーション研究はVibrio 属細菌の蛍光物質産生が菌密度依存的に行われるという報告を皮切りに発展した.このような周囲の菌密度を感知し集団行動を引き起こす現象は次々と発見され,各細菌はAI を介してその菌密度に応じて特定の遺伝子の発現をコントロールしていることがあきらかにされた.この細胞密度依存的制御機構の現象はクオラムセンシングとよばれ白癬菌(Fig.1)をはじめとした真菌の世界でもAI を介したクオラムセンシング機構の遮断が薬剤耐性菌やバイオフィルムに対する新たな治療戦略になる可能性を秘めている点から注目される.
Fig. 1. クオラムセンシングのイメージ.

References:
・石橋健一:クオラムセンシングQuorum sensing. Med Mycol J 58: J1, 2017.
・中山二郎:細菌の世界における細胞間ケミカルコミュニケーションとその分子メカニズム.腸内細菌学雑誌25: 221-234, 2011.
・Kempner ES, Hanson FE: Aspects of light production by Photobacterium fisheri. J Bacteriol 95: 975-979, 1968.
・Fuqua WC, Winans SC, Greenberg EP: Quorum sensing in bacteria: the LuxR-LuxI family of cell density-responsive transcriptional regulators. J Bacteriol 176: 269-275, 1994.
・Donlan RM, Costerton JW: Biofilms: survival mechanisms of clinically relevant microorganisms. Clin Microbiol Rev 15: 167-193, 2002.
・舘田一博,木村総一郎,山口惠三:病態の理解:バイオフィルム感染症とクオラムセンシング.日本内科学会雑誌99: 2677-2681, 2010.

帝京大学ちば総合医療センター皮膚科・佐藤友隆
日本医真菌学会雑誌63巻3号掲載

オートファジー
Autophagy

 オートファジーは,オート(auto)は自己,ファジー(phagy)は食という意味で自食作用とも呼ばれる.細胞質成分をリソソームへと輸送し分解する細胞機能の総称のことである.細胞質の一部が隔離膜によって取り囲まれ,オートファゴソームが形成される.細胞質のタンパク質や細胞内小器官が取り囲まれる.その後,オートファゴソームの外膜にリソソームが融合してオートリソソームが形成され,タンパク質はアミノ酸に分解され,再利用される.オートファジーは,タンパク質分解によるアミノ酸供給と細胞内の品質管理の役割を担っていると考えられている.哺乳類の宿主防御機構にも関与していることが報告され,好中球のNETs形成に関わっていることが報告されている.一方で,Candida glabrataのオートファジー機能はその病原性発現に必要であることが報告されている.

References:
・Shimamura S, Miyazaki T, Tashiro M, Takazono T, Saijo T, Yamamoto K, Imamura Y, Izumikawa K, Yanagihara K, Kohno S, Mukae H: Autophagy-inducing factor atg1 is required for virulence in the pathogenic fungus Candida glabrata. Front Microbiol 10: 27, 2019. doi: 10.3389/fmicb.2019.00027 ・Kanayama M, Shinohara ML: Roles of autophagy and autophagy-related proteins in antifungal immunity. Front Immunol 7: 47, 2016. doi: 10.3389/fimmu.2016.00047
女子栄養大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌61巻4号掲載

アゾール系抗真菌薬
Azole antifungal agents

 抗真菌薬の一種であり,深在性真菌症治療にはミコナゾール,イトラコナゾール,フルコナゾール,ホスフルコナゾール,ボリコナゾール,表在性皮膚真菌症には,ビホナゾール,塩酸ネチコナゾール,ケトコナゾール,ラノコナゾール,ルリコナゾールなどが日本国内で使用されている.アゾール系抗真菌薬は,CYP51A1 によるラノステロールの脱メチル化反応を阻害し,真菌の増殖に必須であるエルゴステロールの合成を阻害する.また,Candida albicansにおいてはアゾール系抗真菌薬によって蓄積したラノステロールから副次的に産生される毒性をもつステロール(14α-methylergosta-8, 24(28)-diene-3,6-diol)も,菌の増殖を抑制する効果をもつと考えられている.一部の一次耐性を示すCandida属(C. glabrata,C. krusei)を除いて多くの病原真菌に対して抗真菌活性を有するため,さまざまな真菌症に対して幅広く使用されている.カンジダ,クリプトコックスなどの酵母に対しては静菌的に作用し,アスペルギルスに対しては殺菌的(ボリコナゾールのみ)に作用する.各病原真菌において耐性株の報告が散見されるものの,分離菌全体の顕著な感受性の低下は認められていない.

References:
・Akins RA. Med. Mycol 43: 285-318 (2005)

国立感染症研究所真菌部・田辺公一,大野秀明
日本医真菌学会雑誌55巻2号掲載

B
バイオフィルム
Biofilm

 バイオフィルムとは、何かの物質表面に付着した微生物のコミュニティであり、微生物集団と微生物によって産生される多糖体やタンパク質などの細胞外マトリックス成分によって構成される密接した3 次元構造体である.それらの微生物間のコミュニケーションは化学的シグナル物質によるクオラムセンシングと呼ばれる機構を介し行われているといわれている.また、バイオフィルム状態にある微生物は、浮遊状態のものとは異なり、その病原性も変化していることも知られている.一般的に薬剤に対し耐性を示し、宿主免疫から防御するなどの性質を示す.カンジダでは、カテーテル留置などの人工物を留置することでバイオフィルムが形成され、感染要因になることが知られている.また、アスペルギルスにおいても、アスペルギローマ形成などの慢性肺アスペルギルス症にかかわっていることが示唆されている.

References:
・Flemming HC, et al: The biofilm matrix. Nat Rev Microbiol 8: 623-633, 2010. ・Beauvais A, et al: Aspergillus biofilm in vitro and in vivo. Microbiol Spectr 3: 2015.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻4号掲載

気管支中心性肉芽腫症
Bronchocentric granulomatosis

 末梢気管支および細気管支を中心にして壊死性肉芽腫が生じる組織反応パターンの1つで,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症で認められることが多く,その他結核・真菌感染・ウェゲナー肉芽腫症・関節リウマチなどでも見られる.病理組織上,上記の末梢気道の壁は組織球の集簇からなる肉芽腫で破壊され,肉芽腫により完全に置換されている場合もある.組織球はしばしば柵状に並ぶ.病変中心部に壊死を伴うが,通常壊死物は気道内腔に認められる.弾性線維染色をおこなうと気道壁の弾性線維が残存していることも消失してしまっていることもある.アレルギー性気管支肺アスペルギルス症で見られる場合は,気管支喘息症状を伴い中枢側の気管支内腔に粘液栓が認められることが多い.

References:
・Travis WD, et al:Bronchial disorders. In Atlas of Nontumor Pathology,
 First series, Fascicle 2, pp.381-433, ARP and AFIP, Washington DC,
 2002.
・Tazelaar HD, et al:Eosinophilic lung disease, In Spencer’s Pathology of
 the Lung, 6th ed(Hasleton P, Flieder DB ed), vol.1, pp.563-584,
 Cambridge University Press, Cambridge, UK, 2013.

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌56巻3号掲載

C
犬のマラセジア皮膚炎
Canine Malassezia dermatitis

 マラセジア皮膚炎は,皮膚表面の常在菌の一種であるMalassezia pachydermatisによって引き起こされる犬,猫の皮膚炎名で,痒みを伴う,皮膚の紅斑,脂漏,落屑,苔癬化などを認める非特異的な皮膚炎である.M. pachydermatisは普段皮膚炎を惹起することはないが,異常に増殖すると以下の機序に従って炎症を引き起こすと考えられている.一方,人の皮膚におもに常在するマラセジアは,Malassezia globosaMalassezia restrictaなど菌種が異なる.
 宿主の皮膚表面からの皮脂の分泌が盛んになると栄養源にするため,増殖しやすくなる.その後増殖したマラセジアが分泌する多量の脂質分解酵素や,皮脂を分解することによって生じた脂肪酸(オレイン酸など)が表皮内へ浸透することによって表皮角化細胞を刺激し,炎症性サイトカインを分泌させ皮膚炎を惹起させる.さらに皮膚内に存在するマクロファージが菌体成分を取り込み,リンパ球へ抗原提示してアレルギー性皮膚炎へ発展すると考えられている.この様にマラセジアからの直接的な皮膚への刺激による炎症およびアレルギー的要素による複合的な皮膚炎が予想されているが,いまだ不明なことが多い.
 ただし皮脂の分泌を盛んにさせる原因が,皮膚の皺が多く,脂質分泌も多い犬種,温度・湿度などの飼育環境要因,食餌,基礎疾患など多岐にわたるため,いくつかの発症要因が複雑に絡み合い,それが予防・根本治療を困難にさせていると考えられる.
 なお,マラセジア皮膚炎はアレルギー機序が関与しているため,「皮膚炎」用語は相応しくないと医学の専門家から指摘されることがあるが,上記機序からアレルギーだけの原因だけではないため,国際的にも獣医領域で使用されている.
 *日本医真菌学会菌名カタカナ表記に従って「マラセジア」と記載したが,「マラセチア」と記載されている場合もある.

References:
・Miller Jr WH, Griffin CE and Cambell KL: Malassezia dermatitis, In Muller & Kirk’s Small Animal Dermatology 7th ed, pp 243-249, Elsevier Mosby, St. Louis, 2012. ・Hube B, Hay R, Brasch J, Veraldi S, Schaller M: Dermatomycoses and inflammation: The adaptive balance between growth, damage, and survival. J Mycol Med 25: e44-58, 2015. ・Bond R, Morris DO, Guillot J, Bensignor EJ, Robson D, Mason KV, Kano R, Hill PB: Biology, diagnosis and treatment of Malassezia dermatitis in dogs and cats: Clinical Consensus Guidelines of the World Association for Veterinary Dermatology. Vet Dermatol 31: 75, 2020.
日本大学生物資源科学部・加納 塁
日本医真菌学会雑誌62巻2号掲載

キメラ抗原受容体T細胞
Chimeric antigen receptor, CAR-T cell

 腫瘍抗原に特異的な抗体の可変領域とT細胞受容体鎖の定常領域を組み合わせたキメラ抗原受容体をT細胞に発現させたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)がEshharらによって開発された.その細胞に抗原を添加すると,インターロイキン2分泌を引き起こし,パーフォリンやグランザイムによる細胞傷害活性を示す.さらにCAR-T細胞を活性化させるために,T細胞共刺激分子であるCD28,CD137(4-1BB)が組み込まれ,より強い細胞内シグナル,活性化を引き起こす細胞が開発されている.CD19 CAR-T細胞は,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫およびB細胞性急性リンパ芽球性白血病に対する治療薬として承認された.β-glucan認識受容体であるdectin-1とT細胞受容体鎖とのCAR-T細胞が,Aspergillus菌糸成長をin vivo,in vitroで阻害することが報告され,真菌感染に対するCAR-T細胞応用の可能性が示されている.

References:
・Eshhar Z, Waks T, Gross G, Schindler DG: Specific activation and targeting of cytotoxic lymphocytes through chimeric single chains consisting of antibody-binding domains and the gamma or zeta subunits of the immunoglobulin and T-cell receptors. Proc Natl Acad Sci U S A 90: 720-724, 1993. ・Kumaresan PR, Manuri PR, Albert ND, et al: Bioengineering T cells to target carbohydrate to treat opportunistic fungal infection. Proc Natl Acad Sci U S A 111: 10660-10665, 2014.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌61巻2号掲載

キチン
chitin

 キチンは,N-アセチルグルコサミンがβ-1, 4 結合した重合体であり,真菌細胞壁の主要構成多糖の一つである.キチンは節足動物や甲殻類の外骨格の主成分でもあり,天然に広く分布している.Saccharomyces cerevisiaeではわずか数%であるが,糸状菌では主要な不溶性細胞壁構成成分であることが知られている.キチンの繊維はお互いに,またはグルカンなどの他の細胞壁構成成分と絡み合い,堅い構造をとることが知られており,細胞壁の強度に重要であることが知られている.キチンは白血球の活性化,サイトカイン産生を引き起こすことが報告されており,マウスモデルの肺アレルギー炎症にも関与していることが報告されている.キチン合成酵素(chitin synthase, CHS)の各クラスの働きが研究されており,抗真菌薬のターゲットとしても期待されている.

References:
・Lenardon MD, et al: Chitin synthesis and fungal pathogenesis, Curr Opin Microbiol 13: 416-23, 2010.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻1号掲載

コレクチン
Collectin

 自然免疫は,病原体の認識において重要である.コレクチンは自然免疫において重要な役割を担う.コレクチンは,コラーゲン用ドメインを持ち,Ca2+依存性レクチン(C 型レクチン)ファミリーに属する.コレクチンファミリーとして,マンノース結合レクチン(MBL),サーファクタント蛋白質(SP)-A,SP-D,コングルチニン,コレクチン(CL)-43,CL-46,CL-P1,CL-L1,CK-K1が知られている.多くのものが分泌型であるが,CL-P1,CL-L1 は非分泌型である.コレクチンは,血中や粘膜液表面に存在する.それらは,侵入してきた細菌,真菌,ウイルスなど病原体のPAMPs を認識し,オプソニンとして貪食作用を高める,活性酸素産生を促進する,PAMPs 受容体と相互作用することにより病原体の排除に関わる.また,MBL,SP-A は補体活性化に関与している.MBL 欠損は,小児や免疫不全者における真菌などの感染症発症を高めることが知られている.

References:
・Gupta G et al: Collectins: sentinels of innate immunity.
 Bioessays 29: 452-464, 2007.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻4号掲載

COVID-19 関連肺アスペルギルス症
COVID-19-associated pulmonary aspergillosis

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺炎を発症した患者において,二次感染が生じることが知られているが,そのなかでもアスペルギルスによる二次感染が問題となっている.これは従来の好中球機能低下患者における侵襲性肺アスペルギルス症(invasive pulmonary aspergillosis:IPA)とは違ったメカニズムで生じると考えられており,COVID-19 関連肺アスペルギルス症(COVID-19-associated pulmonary aspergillosis:CAPA)と呼ばれる.同じようなメカニズムの疾患としてインフルエンザ感染症関連肺アスペルギルス症(influenza-associated pulmonary aspergillosis:IAPA)が知られており,同様の病態ではないかと考えられている.ウイルス感染によって気管支粘膜の損傷と肺胞損傷が惹起され,肺胞組織による血管透過性の亢進がアスペルギルス属の侵入を容易にしていると推測される.また,COVID-19 による炎症性サイトカインの過剰発現が真菌の増殖を促進する要素となっている.そのため,人工呼吸器管理になるような重症患者においてCAPA のリスクが高いことが分かっている.さらに,COVID-19 の治療に使用されるトシリズマブはIL-6 の効果を遮断し,Th17 細胞の発達を阻害することでアスペルギルスに対する免疫応答の欠陥につながるという指摘もある.一方,デキサメタゾンの使用によって,アスペルギルスの胞子を分解するファゴソームの成熟が阻害されることも指摘されている.これらの要素が多元的に働き,COVID-19 の重症肺炎患者においてCAPA が発生するものと考えられている.ボリコナゾールなどによって適切な加療が行われていても死亡率は高く,この疾患の診断が難しいこともあり,COVID-19 の重症肺炎患者において抗真菌薬の予防投与などが検討されているも,有益性を示せていない状況である.

References:
・George D, Maria-Panagiota A, Pavlos M, Jordi R: COVID-19-associated pulmonary aspergillosis(CAPA)
. Journal of Intensive Medicine 2021. https://doi.org/10.1016/j.jointm.2021.07.001[Online ahead of print]
・Vanderbeke L, Janssen NAF, Bergmans DCJJ, et al: Posaconazole for prevention of invasive pulmonary aspergillosis in critically ill influenza patients(POSAFLU): a randomised, open-label, proof-of-concept trial. Intensive Care Med 47: 674-686, 2021
埼玉医科大学総合医療センター感染症科/感染制御科・川村隆之
埼玉医科大学総合医療センター感染症科/感染制御科・大野秀明
日本医真菌学会雑誌62巻4号掲載

隠蔽種,同胞種,関連種
Cryptic species, sibling species, related species

 形態的には識別が困難であるが,分子系統的には明らかな相違が認められる種を隠蔽種とよぶ1).同一種として考えられていた種のなかに複数の種が隠れていたことから,この呼称が用いられている.それに対して,同胞種は最も近縁な2種においてお互いに菌学的に識別される種に,関連種は菌学的に近縁な複数の種に用いられる.最も近縁な関連種が同胞種となる.近年,分子系統的な解析の進展により,隠蔽種が多数報告されている.対照的に,同胞種,関連種の呼称は,分子系統的な解析が本格導入される以前のものに使われる傾向がある.
 Aspergillus lentulusは,β-tubulin,rodlet A遺伝子などの塩基配列の違い,48℃で生育しないこと,頂のうが小さいことを特徴として,2005年,Aspergillus fumigatusの同胞種である新種として報告された2).Aspergillus udagawae(ヘテロタリック,有性型を形成,1995年報告),Aspergillus viridinutans(頂のうが湾曲,1954年報告)は表現型の違いで新種として報告されたが,現在では,分子系統的な違いも明確に示され種として確立している.これら2種はA. lentulusも含めてA. fumigatusの関連種と考えられる.現在ではA. viridinutansは分子系統的に複数の種に細分化され,Aspergillus felisAspergillus pseudoviridinutansなどが新種とされているが 3),これらはA. viridinutansの隠蔽種といえる.
 Aspergillus neoellipticus(分生子が楕円形,1989年報告),Aspergillus arvi(色調が赤褐色,1994年報告)などは表現型の違いで新種として報告されたが,分子系統的な違いがないため,現在ではA. fumigatusの異名synonymとされている.
 いずれにしても隠蔽種,同胞種,関連種は本来の意味の違いはあるものの,現状は同意語として使用されることが多い.

References:
1) Bickford D, Lohman DJ, Sodhi NS, et al: Cryptic species as a window on diversity and conservation. Trends Ecol Evol 22: 148-155, 2007. 2) Balajee SA, Gribskov JL, Hanley E, et al: Aspergillus lentulus sp. nov., a new sibling species of A. fumigatus. Eukaryot Cell 4: 625-632, 2005. 3) Sugui JA, Peterson SW, Figat A, et al: Genetic relatedness versus biological compatibility between Aspergillus fumigatus and related species. J Clin Microbiol 52: 3707-3721, 2014.
千葉大学真菌医学研究センター・矢口貴志
日本医真菌学会雑誌61巻3号掲載

クリプトコッコーマ
Cryptococcoma

 限局性で境界明瞭な結節状のクリプトコックス感染病巣のことで,免疫機能が正常に保たれた宿主の肺や脳において認められる.オーマ(-oma)は腫瘍を意味する接尾辞で,本病変がレントゲン写真や肉眼上,腫瘍に見えたことから命名されたものである.腫瘍を疑われ切除されることもある.クリプトコックス感染後年月を経て,直径数mmから数cm大の結節状病変として胸部レントゲン上認められることが多い.脳クリプトコッコーマでは脳腫瘍に類似し脳圧亢進症状を伴うことがあり,早期に治療を開始する必要がある.病理組織上,クリプトコッコーマは3層構造からなり,中心部の広い範囲を乾酪壊死が占めそれを組織球からなる肉芽腫が囲み,最外層は膠原線維からなる線維性組織に被包化されている.菌体の多くは壊死巣に分布するが,変形していることが多く菌体周囲被膜も薄いためヘマトキシリン・エオシン染色での菌体の観察は困難でグロコット染色が有用である.

References:
・Chandler FW, et al:Cryptococcosis. In Pathology of Infectious Diseases(Connor DH, Chandler FW, Manz HJ, et al ed), vol. 2, pp. 989-997,
 Appleton & Lange, Stamford, 1997.

・Chandler FW, et al:Cryptococcosis. In Pathologic Diagnosis of Fungal
 Infections, pp. 161-175, ASCP Press, Chicago, 1987.


近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌56巻3号掲載

サイトカインストーム
cytokine storm

 感染症や薬剤投与などによりサイトカインが多量に産生され,サイトカインネットワークが破綻すると,血中にIL-1,IL-6,TNF-αなどの種々のサイトカインが正常時とは異なる高濃度で検出されるようになる.このような高サイトカイン血症では,好中球の活性化,血液凝固機構活性化,血管拡張などを介した全身性炎症反応から,ショック,播種性血管内凝固症候群,多臓器不全が起こる.このような状態をサイトカインストーム(cytokine storm)という.サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome)も同様な病態を示すものとして用いられる.移植片対宿主病やキメラ抗原受容体T細胞療法,COVID-19 などの感染症によって引き起こされることが知られている.それらに対し,ステロイドや抗サイトカイン療法が効果的であることが知られているが,2次的な真菌感染のリスクが高まることも報告されている.

References:
・Fajgenbaum DC, June CH: Cytokine storm. N Engl J Med 383: 2255-2273, 2020.
・Bernardes M, Hohl TM: Fungal infections associated with the use of novel immunotherapeutic agents. Curr Clin Microbiol Rep 7: 142-149, 2020.

女子栄養大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌63巻1号掲載
日本医真菌学会雑誌63巻2号掲載

C-タイプレクチン受容体
C-type lectin receptor

 レクチンは糖鎖に結合性を示すタンパク質である.C-タイプレクチン受容体は糖認識ドメイン(carbohydraterecognition domain; CRD)を持ち,Ca2+依存性に糖鎖を認識する受容体である.細胞外に分泌されるものと膜貫通型のC型レクチンがある.C-タイプレクチン受容体はマクロファージや樹状細胞に多く発現され,細胞内領域を用いてシグナル伝達を行うことにより,貪食作用や活性酸素産生を誘導する.Dectin-1 はβ-グルカンを認識する受容体として,マンノース受容体やDectin-2,Mincle はマンナン等を認識する受容体として機能していることが知られている.また,遺伝子ノックアウトマウスを用いた解析から真菌感染防御に重要であることが報告されている.

References:Hardison SE et al., Nat Immunol. 3, 817-22 (2012)
Saijo S et al., Int Immunol. 23, 467-72 (2011)

東京薬大・石橋健一

日本医真菌学会雑誌55巻1号掲載

D
ディフェンシン
Defensin

 感染初期に病原体を認識し排除する生体防御機構として抗菌ペプチドが知られている.ディフェンシンは,真菌,植物,動物などの真核生物において代表的な抗菌ペプチドであり,大きなファミリーの一つとして知られている.ディフェンシンは,システイン豊富なペプチドであり,分子内で3,4 つのジスルフィド結合をもつ塩基性タンパクである.脊椎動物のディフェンシンには,α-,β-,θ-ディフェンシンがある.α-ディフェンシンは好中球や小腸粘膜に存在し,β-ディフェンシンは広く分布し,多くは皮膚,気管支,尿生殖路の上皮細胞によって産生される.ディフェンシンの抗菌作用は細菌だけではなく,真菌に作用することが報告されている.その機序は,イオンチャネルを標的細胞上に形成し膜透過性を変化させることや,マクロファージや好中球の遊走を促す,炎症性サイトカイン産生を促進することによって抗菌作用を示すことが報告されている.

References:
・Silva PM: Defensins: antifungal lessons from eukaryotes. Front Microbiol 5: 97, 2014.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻4号掲載

白癬菌塊
Dermatophytoma

 Dermatophytomaは爪真菌症の一型で,一般的な内服抗真菌薬には抵抗性で,病巣爪甲の外科的除去を必要とするものである.臨床的にはdermatophytoma は爪の中の境界明瞭な白く厚い塊である.これらは楔状や円形の爪甲混濁を形成し,被覆している爪甲を除去すると厚く過角化した塊として認める.自然界に存在する微生物の多くはプランクトンや撹拌した自由に浮遊する微生物ではなくバイオフィルムとして存在する.バイオフィルムは表面に付着する微生物の集落や集合と考えられ,dermatophytoma(白癬菌塊)はこの概念を白癬感染症に応用したものである.古典的なバイオフィルムの例としては歯科のプラークや尿路カテーテル感染などがある.バイオフィルム研究は抗真菌療法の新たな標的となりうる.微生物の接合を減らす物質や,微生物の細胞外マトリックス合成能力を変化させる物質やバイオフィルムに含まれている微生物を破壊できるところまで,より細胞外マトリックスを貫通できる物質が,白癬菌治療の新たな治療戦略の担い手となりうる.

Reference:
・Burkhart CN, et al: Dermatophytoma: Recalcitrance to treatment because of existence of fungal biofilm. J Am Acad Dermatol 47, 629-631, 2002.
帝京大学ちば総合医療センター皮膚科・佐藤友隆


日本医真菌学会雑誌59巻1号掲載

E
キャンディン系抗真菌薬
Echinocandin antifungal agents

 真菌の細胞壁はグルカン,キチン,マンナンによって構成されている.キャンディン系抗真菌薬は細胞壁の主要構成成分であるβ-1,3 glucan 合成酵素の触媒サブユニットに結合し,グルカン合成を阻害する.カンジダ属に殺菌的作用をもち,一部のカンジダ属を除いて高い感受性を示すため,カンジダ症の第一選択薬として用いられることが多い.アスペルギルス属に対しては静菌的に作用し,また担子菌類と接合菌などは一次耐性を示すことが知られている.
 カンジダ属におけるキャンディン系抗真菌薬耐性化は,おもに標的分子であるβ-1,3 glucan 合成酵素の触媒サブユニットをコードする遺伝子(FKS遺伝子)上の点変異によって引き起こされると考えられている.実際にキャンディン系抗真菌薬に耐性化したカンジダ臨床分離株のFKS遺伝子上には,特定のアミノ酸置換変異を引き起こすような点変異が高い頻度で特定されており,これらの遺伝子変異が標的分子と薬剤の親和性を低下させると考えられている.

References:
・Perlin DS. Resistance to echinocandin-class antifungal drugs: Drug Resist Update 10(3): 121-30 (2007)
国立感染症研究所 真菌部・田辺公一,大野秀明
日本医真菌学会雑誌55巻2号掲載

エモンシア症
Emmonsiosis

 アジアスポアを作らず,宿主内で酵母様の形態を示すEmergomyces属により引き起こされる感染症である.以前は原因真菌にEmmonsia pasteurianaの名前が付されていたが,分子系統解析の結果からEmmonsiaparvaEmmonsia crescens,Blastomyces属、Histoplasma属とも異なるとして,Emerogomyces属が新しく提唱された.Emergomyces africanusEmergomyces pasteurianusなどの新種が含められている.エモンシア症Emmonsiosisという用語が2017年の論文報告のなかでも使用されているが,今後変更される可能性もある.
 エモンシア症は近年になって認識された新興感染症であり,南アフリカではHIV 感染患者において2011年から2015年の5年間で50例近くが報告されている.日本での報告は現時点ではない。播種性の感染を起こし,皮膚に多数の病変を形成することが報告されている.本菌は宿主体内や37℃条件下で酵母形となる二形性真菌である.このことからヒストプラズマ症やブラストミセス症と間違われる可能性が複数の報告の中で言及されている.
 本菌およびその感染症についてもまだ研究が始まったばかりであり,感染機構の解明はこれからである.

帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌58巻4号掲載

好酸球
Eosinophil

 好酸球はMBP(major basic protein)などの酸性色素と結合する塩基性タンパク質を含む顆粒を持つ顆粒球であり,PAF,プロスタグランジン,ロイコトリエンなどの脂質メディエーターを産生する.宿主組織の傷害性が強く,炎症反応やアレルギー反応に関与する.真菌との相互作用については,2008 年にYoon らによってAlternariaのβ-glucan に結合し,MBP,EDN(eosinophil derived neurotoxin)などの顆粒タンパク質を放出することが報告されている.また,真菌による喘息やアレルギー性副鼻腔炎の病態に関与していることが報告されている.

References:
・Ravin KA, Loy M: The eosinophil in infection. Clin Rev Allergy Immunol 50: 214-227, 2016. ・Yoon J, Ponikau JU, Lawrence CB, et al: Innate antifungal immunity of human eosinophils mediated by a beta 2 integrin, CD11b. J Immunol 181: 2907-2915, 2008. ・Guerra ES, Lee CK, Specht CA, et al: Central role of IL-23 and IL-17 producing eosinophils as immunomodulatory effector cells in acute pulmonary aspergillosis and allergic asthma. PLoS Pathog 13: e1006175, 2017. ・Kimura M: Histopathological diagnosis of fungal sinusitis and variety of its etiologic fungus. Med Mycol J 58: J127-J132, 2017.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻3号掲載

エルゴステロール
Ergosterol

 エルゴステロールはステロールの一種であり,多くの真菌の主要ステロールである.さまざまなオルガネラに含まれているが,特に細胞膜に多く存在しており,リン脂質や膜タンパク質とともに細胞膜を構成している.エルゴステロール生合成に関わる遺伝子の多くは生育に必須である.哺乳類細胞の主要ステロールであるコレステロールとは,構造と生合成遺伝子の一部が異なるため,エルゴステロールは抗真菌薬のターゲットとなっている.エルゴステロールをターゲットとした抗真菌薬には,生合成遺伝子であるlanosterol 14-α -demethylase を阻害するアゾール系抗真菌薬や,細胞膜のエルゴステロールに結合して抗真菌活性を発揮するポリエン系抗真菌薬がある.

References:
・W de Souza et al. Interdiscip Perspect Infect Dis 2009: 642502 (2009)
・Müllner H et al. Acta Biochim Pol 51(2): 323-47 (2004)

国立感染症研究所真菌部・名木稔,大野秀明
日本医真菌学会雑誌55巻2号掲載

エクソソーム
Exosome

 エクソソームは細胞の多胞性エンドソームが細胞膜と融合することにより放出される細胞外小胞の1つである.エクソソームには,タンパク質やマイクロRNAを含む核酸などが存在しており,細胞間のコミュケーションに関与していると考えられている.血液や体液,尿,母乳などにも存在することが知られており,バイオマーカーや治療への応用も期待されている.また,T細胞やNK細胞,樹状細胞などの免疫担当細胞もエクソソームを産生することが知られており,免疫応答の調節に関係していると考えられている.一方,病原体からも産生されることが知られており,Cryptococcus属酵母の病原性との関連性を示唆するデータが報告されている.

References:
・Schorey JS, Cheng Y, Singh PP, et al: Exosomes and other extracellular vesicles in host-pathogen interactions. EMBO Rep 16: 24-43, 2015. ・Rodrigues ML, Casadevall A: A two-way road: novel roles for fungal extracellular vesicles. Mol Microbiol 110: 11-15, 2018.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌60巻1号掲載

F
フィコリン
Ficolin

 N末端側にコラーゲン様構造,C末端側にフィブリノーゲン様構造をもつ糖鎖結合タンパク質(レクチン)である.ヒトにおいては,M,L,Hの3種類のフィコリンが知られている.マウスやブタなどの脊椎動物や無脊椎動物のマボヤにおいても,フィコリン相同分子が同定されている.ヒトフィコリンはマンノース結合レクチンと同様にセリンプロテアーゼであるMASPと複合体を形成し,レクチン経路を介して補体系を活性化する.Aspergillus菌体にフィコリンが結合し,補体の活性化を介して食細胞を活性化すること,侵襲性アスペルギルス症患者の肺胞洗浄液中に増加すること,など真菌の感染免疫において注目される分子である.

References:
・Runza VL, Schwaeble W, Männel DN: Ficolins: novel pattern recognition molecules of the innate immune response. Immunobiology 213: 297-306, 2008. ・Rosbjerg A, Genster N, Pilely K, et al: Complementary roles of the classical and lectin complement pathways in the defense against Aspergillus fumigatus. Front Immunol 7: 473, 2016.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻4号掲載

固定
Fixation

 さまざまな意味を含む用語であるが,ここでは組織学や病理学で用いられる用語として解説する.固定とは,生体から取り出した組織の観察を目的に,自己融解を防止し,可能な限り元の形態を維持するように化学的処理を加えることである.自己融解の原因となる細胞中のたんぱく分解酵素の不活化は,その機序に含まれる.固定は細菌など微生物の増殖も止めるため,腐敗防止を兼ねている.元の形態を維持するために3つの方法がある.第1は細胞や組織を構成するたんぱく質や糖鎖の分子間に架橋を形成させ,その分子の移動を阻止するもので,ホルマリンなどのホルムアルデヒド系固定液が使用される.第2はポリペプチドなど溶出しやすい物質の流出を防止するため,組織に浸透しやすい酸によるたんぱく凝固を用いたもので,ピクリン酸を用いたブアン固定などがある.第3はアルコール固定やアセトン固定で,それらによってたんぱく分子の水和水が除去されたんぱく凝固が生じる.これら種々の方法には一長一短があり,目的に応じて使い分ける必要がある.良好に固定するためには,組織を固定液が浸透しやすい大きさにしておくべきで,厚さは5mm程度までが望ましい.また固定液はホルマリンであれば,組織の体積1に対してホルマリン20以上が適量であり,固定液が十分でなければ固定が不良となる.

References:
・菅野純:5.固定法1)組織固定法.臨床検査 増刊号 免疫組織・細胞化学検査39:24-26, 1995. ・森谷卓也:2.組織の固定.病理検査室利用ガイド(笹野公伸, 森谷卓也,真鍋俊明編),pp.14-19,文光堂,東京,2004.
近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌58巻3号掲載

フローサイトメトリー
Flow cytometry

 細胞などの浮遊液を流体系の中で,流体学的絞り込みという現象を用いて,細胞を1 つ1 つ流体系の中を通過させ,測定部において,レーザー光を各細胞に照射して得られる光学的,電気的信号により、各細胞の特徴を解析する方法である.フローサイトメトリーに用いる機器として,細胞の特徴を解析するアナライザーと,解析した結果から目的の細胞を分取するセルソーターがある.レーザーを照射した際の前方散乱光からは細胞のサイズを,側方散乱光からは細胞の内部構造の複雑さを反映した情報が得られる.そのほかに,蛍光標識された細胞表面の抗原タンパク質や細胞内に存在するタンパク質に対する抗体で細胞を標識することにより,細胞の生物学的特徴を解析することができる.解析対象は哺乳類の細胞だけではなく,酵母などの微生物やビーズアレイなども含まれる.また,分子生物学的手法との組み合わせた真菌の検出,同定も検討されている.

References:
・Kempf VA, et al: Rapid detection and identification of pathogens in blood cultures by fluorescence in situ hybridization and flow cytometry. Int J Med Microbiol 295: 47-55, 2005.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌58巻2号掲載

真菌ヘモリジン
Fungal hemolysin

 ヘモリジンは赤血球を溶血する溶血素で,細菌ではStaphylococcus aureusが産生するα毒素やStrep-tococcuspyogenesが産生するコレステロール依存性細胞溶解毒素(CDC)であるストレプトリジンO などがよく知られている.真菌もヘモリジンを産生することが1930年代から報告されており,Aspergillus fumigatus,A. flavusをはじめ,Candida albicans,Ctyptococcus neoformansなどの病原性酵母を含む複数の真菌でヘモリジン活性が報告されている.真菌ヘモリジンの分類や分泌についての詳細は明らかではないが,ヒラタケのOstreolysinでは、コレステロールとは直接結合しないもののCDC 様の作用を示すことが報告されている.溶血により放出された鉄やgrowth factor を真菌が利用すると考えられており,ヘモリジンは真菌のvirulence factor の一つであることが示唆されている.菌糸の凝集への関与も指摘されているが,Blastomy-cesdermatitidisでは酵母形で溶血活性が高く,C.albicans では菌糸形で活性が高いなど,その作用には不明な点が多い.Wallemia sebiでは不飽和脂肪酸が溶血活性を示すことが示唆されており,ヘモリジン活性にはタンパク質以外に二次代謝産物の関与なども示唆される.

References:
・Nayak AP, et al: Fungal hemolysins, Med Mycol 51: 1-16, 2013.

明治薬科大学感染制御学・市川智恵
日本医真菌学会雑誌57巻2号掲載

G
ガラクトサミノガラクタン(GAG)
Galactosaminogalactan

 GAG(galactosaminogalactan)は,ガラクトピラノース,N-アセチルガラクトサミンおよびガラクトサミンがα-1,4-結合でランダムに連なった直鎖状の多糖である.
 Aspergillus fumigatusの細胞外マトリクスの主要成分として知られている.GAG生合成遺伝子はA. fumigatusで最初に同定されたが,Aspergillus属菌を含むチャワンタケ亜門の一部の種やTrichosporon asahiiにもGAG生合成遺伝子が存在すると報告されている.A. fumigatusのGAGは休眠分生子には存在しないが,発芽して菌糸が伸長する際に分泌されて菌糸表面に接着する.GAGの宿主への感染時における機能が近年明らかになりつつあり,(1) A. fumigatus菌糸の宿主細胞や基質表面への接着因子であること,(2)真菌細胞壁を免疫認識から回避する機能を持つこと,(3)血小板や内皮細胞を活性化し,感染時の血栓症の原因となること,(4)アポトーシスの誘導およびneutrophil extracellular traps(NETs)への抵抗性により,好中球の抗真菌活性を減衰させること,(5) IL-1受容体アンタゴニストの発現を亢進させることにより,Th1型およびTh2型のサイトカインの産生を抑制(結果として抗真菌活性が低下)すること,などが示されている.2020年,GAGがリボソームタンパク質に結合することで翻訳マシナリーを阻害し,自然免疫に関与するNLRP3インフラマソームを活性化することが報告され,A. fumigatusの感染メカニズムにおけるGAGの役割が更に明らかになりつつある.

References:
・Fontaine T, Delangle A, Simenel C, Coddeville B, Van Vliet SJ, Van Kooyk Y, Bozza S, Moretti S, Schwarz F, Trichot C, Aebi M, Delepierre M, Elbim C, Romani L, Laté JP: Galactosaminogalactan, a new immunosuppressive polysaccharide of Aspergillus fumigatus. PLoS Pathog 7: e1002372, 2011. ・Speth C, Rambach G, Lass-Flörl C, Howell PL, Sheppard DC: Galactosaminogalactan (GAG) and its multiple roles in Aspergillus pathogenesis. Virulence 10: 976-983, 2019.
・Briard B, Fontaine T, Samir P, et al: Galactosaminogalactan activates the inflammasome to provide host protection. Nature 588: 688-692, 2020.

国立感染症研究所・宮澤 拳
日本医真菌学会雑誌62巻3号掲載

ゲノム編集
Genome editing

 部位特異的なDNA 切断酵素を利用して,自由自在に標的遺伝子を改変する技術である.ZFN(Zinc-Finger Nuclease),TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease),CRISPR (Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)/Cas9(Crispr ASsociated protein 9)がおもに利用されている.CRISPR/Cas9 では,ガイドRNA とCas9蛋白質から構成される複合体により,ガイドRNA の相補配列特異的な部位に結合し,二本鎖DNA を切断する.真菌では,出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeをはじめとして,Aspergillus fumigatus,Candida albicans,Cryptococcus neoformans などの病原真菌を含むさまざまな菌種に応用されている.

References:
・Deng H, et al: CRISPR system in filamentous fungi: current achievements and future directions. Gene 627, 212-221, 2017. ・Shi TQ, et al: CRISPR/Cas9-based genome editing of the filamentous fungi: the state of the art. Appl Microbiol Biotechnol 101, 7435-7443, 2017. ・Burkhart CN, et al: Dermatophytoma: Recalcitrance to treatment because of existence of fungal biofilm. J Am Acad Dermatol 47, 629-631, 2002. 帝京大学ちば総合医療センター皮膚科・佐藤友隆


日本医真菌学会雑誌59巻1号掲載

グリオトキシン
Gliotoxin

 Aspergillus fumigatus などの糸状菌が産生する二次代謝産物の一つ.13 個の遺伝子がグリオトキシン生合成に関わっていると考えられている.ジスルフィド結合を含むジケトピペラジン環が特徴的である.哺乳類細胞に対してアポトーシスを誘導する活性を有している.ステロイド薬投与による免疫抑制マウスにA. fumigatus を感染させた実験では,グリオトキシン産生を欠失したA. fumigatus 感染ではグリオトキシン産生A. fumigatus 感染よりもマウス生存期間が長くなる傾向が報告された.このことから,グリオトキシンがA. fumigatus 感染においても重要な役割を担っていると考えられている.

References:
・Sugui JA, Pardo J, Chang YC, et al: Gliotoxin is a virulence factor of Aspergillus fumigatus: gliP deletion attenuates virulence in mice immunosuppressed with hydrocortisone. Eukaryot Cell 6: 1562-1569, 2007. ・Spikes S, Xu R, Nguyen CK, et al: Gliotoxin production in Aspergillus fumigatus contributes to host-specific differences in virulence. J Infect Dis 197: 479-486, 2008. ・Wang DN, Toyotome T, Muraosa Y, et al: GliA in Aspergillus fumigatus is required for its tolerance to gliotoxin and affects the amount of extracellular and intracellular gliotoxin. Med Mycol 52: 506-518, 2014.
帯広畜産大・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌63巻4号掲載

肉芽腫
Granuloma

 組織球およびそれが変化した細胞が集簇したものを肉芽腫という.通常は多数の細胞が集簇して結節状となり周囲組織から区別できる.組織球のうちやや大きい核と豊富な細胞質を持ち互いに上皮のように連結するものは類上皮細胞と呼ばれ,結核肉芽腫やサルコイドーシスの肉芽腫の主な構成細胞である.脂肪を貪食して細胞質が明るい泡沫状となった組織球が集簇すると黄色肉芽腫と呼ばれる.組織球が融合すると,ラングハンス型・異物型・ツートン型などの種々な多核巨細胞となり肉芽腫内に認められる.結核では壊死を囲むように肉芽腫が見られ,最外周をリンパ球浸潤が囲む.真菌感染で見られる肉芽腫は肉芽腫の中心に膿瘍を伴う化膿性肉芽腫や異物型巨細胞が見られる異物型肉芽腫が多い.肉芽腫としばしば混同される肉芽組織という用語は,毛細血管と線維芽細胞の増殖からなり潰瘍などの損傷部を修復する組織である.

References:
・Ackerman AB, et al. Histologic diagnosis of inflammatory skin diseases, 3 rd ed. Ardor Scribendi, New York (2005)

近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌55巻3号掲載

グロコット染色
Grocott stain

 組織標本観察のために通常実施される染色法はヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)であるが,HE染色標本では真菌はしばしば明瞭には染色されないため,真菌形態の観察にグロコット染色が用いられる.グロコット染色により組織標本中の真菌細胞壁が染色され真菌の輪郭が明瞭となる.グロコット染色はゴモリのメテナミン銀染色Gomori’s methenamine-silver nitrate techniqueを改良した染色法でグロコットによる変法である.わが国ではグロコット染色と呼んでいるが,諸外国ではGomori methenamine silver染色,あるいはその簡略名であるGMS染色が好んで用いられる.なお,Grocott methenamine silver染色も最近では用いられるようになってきたが,その簡略名もGMS染色である.
 染色の原理は,真菌細胞壁を構成する多糖の水酸基がクロム酸で酸化され,それにより生じたアルデヒドがメテナミン銀を還元し細胞壁が黒褐色となる.グロコット染色では真菌の生死にかかわらず染色されるため,染色されたからといって生菌とは限らない.ニューモシスチスをはじめほとんどの真菌が染色されるが,放線菌やノカルジアなどの細菌も染色される.またムーコルは染色されにくいことがしばしばあり,メテナミン銀反応時間を長めにすることが推奨されている.

References:
・Grocott RG: A stain for fungi in tissue sections and smears using Gomori’s methenamine-silver nitrate technic. Am J Clin Pathol 25: 975-979, 1955. (2005) ・Kwon-Chung KJ, Bennett JE: Histopathologic Diagnosis of Mycoses. In Medical Mycology. pp.72-78. Lea & Febiger, Philadelphia, PA, USA, 1992.
近畿大学医学部病理学教室・木村雅友
日本医真菌学会雑誌62巻1号掲載

H
毛髪穿孔試験
Hair perforation test

 臨床検体から分離される皮膚糸状菌(白癬菌)の菌種を鑑別する方法の1 つで,Trichophyton mentagrophytesTrichophyton rubrumの鑑別に利用することができる.ヒト白癬の最も重要な起因菌であるT. rubrum は毛髪に穿孔を生じない陰性となるのに対し,T. mentagrophytes や,T. rubrum と同じヒト好性白癬菌の1つである Trichophyton interdigitale では陽性となる.また,数年前に T. mentagrophytes / T. interdigitale complex(複合群)から独立した新種として提案された Trichophyton indotineae は毛髪穿孔試験陰性となる.
 オートクレーブなどにより滅菌した健常人の毛髪(長さ1 cm 以下のものを10 本程度)を滅菌済プラスチック容器(シャーレ,試験管など)に入れ,0.05%(w/v)程度の濃度のyeast extract 含有培地(液体または寒天培地)を適量加えた後,培養菌塊を数個接種して培養する.(4 週間程度まで)1週ごとに培養中の毛髪を採取して鏡検し,菌糸が毛髪の中に垂直に侵入してできるくさび形の穿孔の有無を確認する.

References:
・ラローンD.H.:医真菌同定の手引き(山口英世日本語監修,末柄信夫監訳),pp.221-222,シュプリンガー・フェアラーク東京,東京,1996.
帝京大学・山田 剛
日本医真菌学会雑誌63巻3号掲載

ハイコンテント解析法
High-content analysis

 生細胞を顕微鏡下でカメラ撮影し,さまざまな定量的データを得る手法.電動顕微鏡,マルチパラメーターの画像処理プログラム,蛍光プローブなどの視覚化ツールを用い,細胞集団から定量データを抽出し解析する.細胞を自然のままで解析することができ,形態変化,複数のタンパク質の発現の経時変化,分布,相互作用など多面的なデータとして得ることができる.さまざまな化合物のハイスループット活性スクリーニングや免疫細胞と病原体との相互作用解析に応用されている.

References:
・Boutros M, Heigwer F, Laufer C: Microscopy-based highcontent screening. Cell 163: 1314-1325, 2015. ・Bojarczuk A, Miller KA, Hotham R, et al: Cryptococcus neoformans intracellular proliferation and capsule size determines early macrophage control of infection. Sci Rep 6: 21489, 2016.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻4号掲載

I
墨汁法
India ink method

 微生物と墨汁またはインディアインクの混和後,顕微鏡で観察し,墨汁またはインディアインクの暗黒背景の中に埋もれず染色されない微生物を検出する方法である.最も利用されているのは,クリプトコックス髄膜炎が疑われる場合で,髄液に対して行われているものである.具体的方法は,採取した髄液あるいはその沈査を墨汁あるいはインディアインクと混合し,その一部をスライドガラス上にとり,その上からそっとカバーガラスを載せ,通常の光学顕微鏡で観察する.髄液などをスライドガラスにとり,そこに墨汁やインディアインクを重層する方法もある.クリプトコックス細胞の周囲には厚い莢膜があり,これにより墨汁やインディアインクははじかれる.そのため光源からの光がその部分だけを通り明るく,背景は墨汁やインディアインクのため暗黒である(Fig. 1).髄液以外では,気管支分泌物や気管支肺胞洗浄液にも応用されることがある.クリプトコックス以外では,莢膜を有する細菌の観察に用いられる.

References:
・Larone DH: cryptococcosis. In Medically Important Fungi, 5th ed. pp57 & 411, ASM press, Washington, DC, 2011. ・山口英世:A 直接鏡検法.病原真菌と真菌症.pp.66-67,南山堂,東京,2003.
近畿大学医学部病理学教室・木村雅友



日本医真菌学会雑誌58巻4号掲載

インドールアミン酸素添加酵素
Indoleamine 2,3-dioxygenase(IDO)

 インドールアミン酸素添加酵素(IDO)は,トリプトファンをキヌレニンに代謝する律速酵素である.IDO1は炎症性サイトカインやリポポリサッカライドによって酵素誘導され,樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞,上皮細胞などで発現している分子である.IDOを発現した樹状細胞がナイーブT細胞から制御性T細胞(Treg)への誘導に関わっていることが知られている.パラコクシディオイデス感染において,IDOを発現する肺の樹状細胞の数を増加させ,Tregの活性を増加させること,アスペルギルス感染では,感染防御と組織傷害の調節に寄与することが報告されている.

References:
1) de AraÚjo EF, Medeiros DH, de Lima Galdino NA, et al: Tolerogenic plasmacytoid dendritic cells control paracoccidioides brasiliensis infection by inducting regulatory T cells in an IDO-dependent manner. PLoS Pathog 12: e1006115, 2016. 2) Tsokyi Choera, Zelante T, Romani L, et al: A multifaceted role of tryptophan metabolism and indoleamine 2,3-dioxygenase activity in Aspergillus fumigatus-host interactions. Front Immunol 8: 1996, 2018.

女子栄養大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌61巻3号掲載

インフラマソーム
Inflammasomes

 宿主細胞は,病原微生物の侵入に対し,パターン認識受容体を介した認識機構により,速やかに生体防御反応を発揮し,TNF-α,IL-1βなどの炎症性サイトカイン産生を示す.IL-1βやIl-18 は多様な生理活性を示す炎症性サイトカインであり,微生物などの刺激により前駆型が産生され,活性型が分泌されるには,前駆体からの活性型の切断が必要であるとされている.インフラマソームはIL-1βおよびIL-18 産生を制御する細胞内のタンパク質複合体であり,刺激を認識する受容体であるNLRP,apoptosis-associated speck-like proteincontaining a caspase recruitment domain(ASC),カスパーゼ-1 からなる.インフラマソームを活性化するものとして,細菌,ウイルス,真菌(Candida albicans),尿酸結晶,ATP などが知られている.また,インフラマソームの異常は自己炎症症候群の発症に関与していることが報告されている.

References:
・Martinon F et al., Cell 117: 561-74, 2004.
・Franchi L et al., Eur J Immunol. 40: 611-5, 2010.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻1号掲載

インフルエンザ関連肺アスペルギルス症
Influenza-associated pulmonary aspergillosis:IAPA

 インフルエンザ関連肺アスペルギルス症(Influenza-associated pulmonary aspergillosis:IAPA)はICUでの治療を必要とするような重症のインフルエンザ感染症患者において肺アスペルギルス症が発症し,高い致死率を伴う重篤な症状を呈する.通常,肺アスペルギルス症は免疫抑制剤による治療制御下もしくは免疫力の低下が認められる患者で発症するが,IAPAは健常人でもインフルエンザウイルスに感染し,重症化すれば肺アスペルギルス症を発症しうる.IAPAは1979年のFischerらによる報告を先駆けとして症例報告やインフルエンザのコホート調査に至るまで報告がなされており,近年では成人の新型インフルエンザ治療ガイドラインにおいても注意喚起がなされるほど,広く認知されている.症状としては急性の呼吸不全や肺における重度の化膿性炎症を呈する.2021年6月現在では世界的なCOVID-19の拡大によりCOVID-19に続発する肺アスペルギルス症やムーコル症などの二次性の真菌症も報告されるようになってきた.今後はCOVID-19に対する治療のみならず二次性の真菌症も見越した新たな治療法が望まれる.

References:
・Fischer JJ, Walker DH: Invasive pulmonary aspergillosis associated with influenza. JAMA 241: 1493-1494, 1979. ・Lewis M, Kallenbach J, Ruff P, Zaltzman M, Abramowitz J, Zwi S: Invasive pulmonary aspergillosis complicating influenza A pneumonia in a previously healthy patient. Chest 87: 691-693, 1985. ・Schauwvlieghe AFAD, Rijnders BJA, Philips N, et al: Invasive aspergillosis in patients admitted to the intensive care unit with severe influenza: a retrospective cohort study. Lancet Respir Med 6: 782-792, 2018. ・Rijnders BJA, Schauwvlieghe AFAD, Wauters J: Influenza-associated pulmonary aspergillosis: a local or global lethal combination? Clin Infect Dis 71: 1764-1767, 2020. ・Schwartz IS, Friedman DZP, Zapernick L, Dingle TC, Lee N, Sligl W, Zelyas N, Smith SW: High rates of influenza-associated invasive pulmonary aspergillosis may not be universal: a retrospective cohort study from Alberta, Canada. Clin Infect Dis 71: 1760-1763, 2020. ・Dewi IM, Janssen NA, Rosati D, Bruno M, Netea MG, Br\u000000fcggemann RJ: Invasive pulmonary aspergillosis associated with viral pneumonitis. Curr Opin Microbiol 62: 21-27, 2021. ・Hanley B, Naresh KN, Roufosse C, et al: Histopathological findings and viral tropism in UK patients with severe fatal COVID-19: a post-mortem study. Lancet Microbe 1: e245-e253, 2020.
国立感染症研究所・高塚翔吾
日本医真菌学会雑誌62巻3号掲載

自然リンパ球
Innate lymphoid cells

 抗原特異的な受容体を持つT 細胞やB 細胞とは異なり,抗原受容体を持たず自然免疫で働くリンパ球を自然リンパ球(ILC)という.2013年にSpitsらの提案により,サイトカインの産生パターンなど機能的な観点から3 つのグループに分類されている.自然リンパ球の活性化はサイトカインによって誘導される.ILC1 はT-bet を発現し,IFN-γを産生する.ILC2 はGATA-3 を発現し,IL-5,IL-13 などを産生する.ILC3 はRORγt を発現し,IL-17A,IL-22 などを産生する.ILC2 はアレルギー応答に関与していると考えられており,動物モデルを用いた検討において真菌が誘発するアレルギー応答にも関与していることが示唆されている.

References:
・Spits H, Artis D, Colonna M, et al: Innate lymphoid cells - a proposal for uniform nomenclature. Nat Rev Immunol 13: 145-149, 2013. ・Morita H, Moro K, Koyasu S: Innate lymphoid cells in allergic and nonallergic inflammation. J Allergy Clin Immunol 138: 1253-1264, 2016.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻3号掲載

インターロイキン17
Interleukin-17;IL-17

 IL-17にはIL-17A,IL-17B,IL-17C,IL-17D,IL-17E(別名IL-25),IL-17Fの6つのサブタイプがあり,IL-17ファミリーサイトカインと呼ばれる.IL-17AとIL-17Fは構造的に似ており,免疫活性を示す.両サイトカインは,線維芽細胞,平滑筋細胞,血管内皮細胞,上皮細胞,角化細胞,軟骨細胞に作用し.IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインや好中球を動員するケモカイン,抗菌ペプチド,接着分子の発現を誘導する.IL-17は病原真菌などに対する感染防御を担う一方,自己免疫疾患などの炎症性疾患に関わることが知られている.抗IL-17抗体などの生物学的製剤が炎症性疾患の治療に用いられている.

References:
・Matsuzaki G, Umemura M: Interleukin-17 family cytokines in protective immunity against infections: role of hematopoietic cell-derived and non-hematopoietic cell-derived interleukin-17s. Microbiol Immunol 62: 1-13, 2018. ・Conti HR, Gaffen SL: IL-17-mediated immunity to the opportunistic fungal pathogen Candida albicans. J Immunol 195: 780-788, 2015.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌60巻1号掲載

国際藻類・菌類・植物命名規約
International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants, ICN

 学名は,他の研究者やコミュニティーの中で当該のグループの共有し,その実体を正確に情報伝達する基本であり,一定のルール(国際命名規約,International Code of Nomenclature)に則って与えられている.細菌は国際細菌命名規約,動物は国際動物命名規約,そして菌類は国際藻類・菌類・植物命名規約に従う.それぞれの規約は対象とする生物によって多少異なるが以下の3 つの原則,@その群の中に命名基準(nomenclaturaltype)を設ける,A先取権(priority)の原則,B種の学名(scientific name)はリンネが確立した二名法(binominal nomenclature)に従い,属名(genus name)と種形容語(species epithet)から成る,は共通である.国際命名規約は定期的に見直し・改正が行われており,2011年メルボルンで行われた国際植物学会において,菌類が従う「国際植物命名規約」の正式名称が「国際藻類・菌類・植物命名規約」に変更された.それ以外にも,電子出版のみでの出版が有効発表として認められる,など大きなトピックスがあった.中でも研究コミュニティーに大きい影響を及ぼすのが,従来は子嚢菌類と担子菌類に認められていた「二重命名法(dual nomenclature)」が廃止され「統一命名法(unitary nomenclature)」が採用されたことである.新しい学名リストは,2017年の国際植物会議で決定される予定である.

References:
・Nature News (2011年7月20日)
・国際藻類・菌類・植物命名規約
 http://www.iapt-taxon.org/nomen/main.php

理化学研究所バイオリソースセンター・高島昌子
日本医真菌学会雑誌55巻3号掲載

半導体シークエンシング法
Ion semiconductor sequencing

 真菌ゲノム解析や網羅的発現解析でも用いられる大規模シークエンシングで用いられている塩基配列決定法の一つである.パイロシークエンシングと類似しているが,その検出方法がユニークである. 具体的には以下のとおりである.鋳型となるDNA にプライマーが結合してポリメラーゼにより伸長反応を行い,伸長反応では4 種のデオキシリボヌクレオチドのうち,1 種類だけ添加する部分はパイロシークエンシングと同じである.このとき伸長が起こった部分ではピロリン酸と同時にプロトンが生じる.このとき微小なpH の変化が生じ,これを半導体で検出することにより,どの塩基が取り込まれたかを知ることができる.


帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌56巻2号掲載

アイソレーションチップ
isolation chip(iChip)

 iChipは難培養微生物のハイスループット培養用に開発されたチップである.384 個の極小のdiffusionchamber を有する構造で,1つのチャンバーに1つの菌体が入る程度に希釈したサンプルを入れ,浸透膜で塞ぎ,海水や土壌中など微生物本来の生育環境に戻して培養する.浸透膜は微生物の増殖に必要な栄養や増殖因子を通すため,チャンバー内では難培養微生物も増殖する.一般的な平板培地で培養した場合と比較して,iChipを用いることで多数の微生物が増殖することが報告されている.また,一度増殖すればin vitroで増殖可能な細菌種も多いことが報告されており,難培養微生物の研究における有用性が期待されている.

References:
・Nichols D, et al: Use of ichip for high-throughput in situ cultivation of “uncultivable” microbial species, Appl Environ Microbiol 76: 2445-2450, 2010. ・Ling LL, et al: A new antibiotic kills pathogens without detectable resistance, Nature 517: 455-459, 2015.
明治薬科大学感染制御学・市川智恵
日本医真菌学会雑誌57巻2号掲載

L
ラカジオーシス(ロボミコーシス,ロボ病,ケロイド状分芽菌症)
Lacaziosis (Lobomycosis, Lobo's disease, keloidal blastomycosis)

 ラカジオーシス(ロボミコーシス)は南米アマゾン地域に限局した風土病で,掻痒感や疼痛を伴った難治性ケロイド状慢性皮膚肉芽腫を特徴とする.原因菌は培養困難なLacazia loboiである.発症は男性に多く,感染から発症までは数ヵ月から数十年を要する.抗真菌薬の投与,外科的切除などの治療による完治は困難で,寛解再燃を繰り返す.特徴は顕著な結節性葉状集塊として現れる肉芽腫で,真皮や皮下組織に酵母様真菌の菌塊およびその断片を認め,周囲に組織球,多核巨細胞などによる顕著な細胞浸潤を認める.菌体は直径約10μm 前後の球体で,連珠状もしく多極性出芽を示す.病理組織での菌体検出はグロコット染色が推奨される.かつてイルカもラカジオーシスの宿主とされていたが,原因菌の遺伝子型がパラコクシジオイデス症原因菌のParacoccidioides brasiliensisに一致することから,2016年に“クジラ型パラコクシジオイデス症(paracoccidioidomycosis ceti)”とされ,わが国でもイルカ症例が報告されている(Fig. 1).

References:
・Vilela R, Bossart GD, St. Leger JA, et al: Cutaneous granulomas in dolphins caused by novel uncultivated Paracoccidioides brasiliensis. Emerg Infect Dis 22: 2063-2069, 2016.
琉球大学農学部家畜衛生学研究室・佐野文子


日本医真菌学会雑誌58巻3号掲載

LAMP法
LAMP method

 Loop-Mediated Isothermal Amplification の略であり,迅速・簡易・精確な遺伝子増幅法である.標的遺伝子の6つの領域に対して4種類のプライマーを設計する.サンプルとなる遺伝子,プライマー,鎖置換型DNA 合成酵素,基質を混合し,65℃付近の一定温度で保温することによって反応が進み,検出までの行程を1ステップで行うことができる.増幅効率が高く,15分〜1時間で109-1010倍に増幅することができる.特異性も高く,増幅産物の有無で目的とする標的遺伝子配列の有無を判定することができる.増幅の判定は,副産物であるピロリン酸マグネシウムによる白濁もしくはカルセインを用いた蛍光によって,目視で可能である.カンジダ検出用のキットが販売されている.他にもさまざまな真菌に対するLAMP 法の開発が報告されている.非常に高感度な検出法のため,増幅産物による検査室内汚染に注意する必要がある.

References:
・Notomi T, et al. Nucleic Acids Res 28 (12): e63 (2000)
・Søe MJ, et al. Clin. Chem 59(2): 436-439 (2013)

国立感染症研究所真菌部・梅山隆,大野秀明
日本医真菌学会雑誌55巻2号掲載

ラテラルフローイムノアッセイ
Lateral flow immunoassay

 イムノクロマトグラフィーアッセイともよばれる.抗原または抗体を含む検体試料をセルロースなどのメンブレン膜上で毛細管現象により移動させながら,さまざまな抗原抗体反応を行わせ,簡便に結果判定を行えるようにした免疫測定法である.感染症診断をはじめ,妊娠検査など多くの項目において応用され,広く用いられている.特別な測定装置を用いなくても,短時間で,目視で簡便に診断できる方法である.真菌感染症診断においても気管支肺胞洗浄液においてガラクトマンナン抗原を検出する侵襲性肺アスペルギルス症の診断,莢膜成分であるグルクロノキシロマンナンを検出するクリプトコックス症の診断への応用も検討されている.

References:
・Miceli MH, et al: Performance of lateral flow device and galactomannan for the detection of Aspergillus species in bronchoalveolar fluid of patients at risk for invasive pulmonary aspergillosis. Mycoses 58: 368-74, 2015.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻3号掲載

M
機械学習・深層学習
Machine learning / Deep learning

 機械(コンピュータ)が,データから反復的に自動で学習することを機械学習(machine learning)という.AI(人工知能)を支える技術の1 つである.データの背景にあるルールやパターンを見つけ出し,学習した結果を新たなデータに当てはめることで,将来を予測することができる.身近な例だと,顔認証や株価予測・スパムメールのフィルタリングに利用されている技術である.深層学習(deep learning)は,ニューラルネットワークという人間の神経回路網を模倣した数理モデルを多層的に結合して表現・学習能力を高めた機械学習のアプローチの1 つである.応用例として,長鎖解読が可能なナノポアシークエンサーにおいて,核酸がナノポアを通過する際に生じる電流変化を塩基配列に変換するのに深層学習によるアルゴリズムが使用されている.近年開発されたタンパク質の構造予測を行うプログラムAlphaFold も深層学習の手法を利用している.医真菌学領域では,CT画像・顕微鏡画像からchronic pulmonary aspergilosis(CPA)の診断や菌種を同定する試みが行われている.

References:
・Silvestre-Ryan J, Holmes I: Pair consensus decoding improves accuracy of neural network basecallers for nanopore sequencing. Genome Biol 22: 38, 2021. ・Tunyasuvunakool K, Adler J, Wu Z, et al: Highly accurate protein structure prediction for the human proteome. Nature 596: 590-596, 2021. ・Angelini E, Shah A: Using artificial intelligence in fungal lung disease: CPA CT imaging as an example. Mycopathologia 186: 733-737, 2021. ・Zieliński B, Sroka-Oleksiak A, Rymarczyk D, et al: Deep learning approach to describe and classify fungi microscopic images. PLoS One 15: e0234806, 2020.

国立感染症研究所・梅山 隆
日本医真菌学会雑誌63巻3号掲載

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計
MALDI-TOF/MS:Matrix assisted laser desorption / ionization-time-of-flight mass spectrometer

 質量分析は,試料のイオン化,イオンの分離,イオンの検出のステップからなる.MALDIによるイオン化法では,マトリックスという有機化合物を用いて,イオン化が促進され,試料の分解を防ぎながら,イオン化することができる.TOFはイオン化された成分を分離する方法であり,生成したイオンの質量電荷比によって,電場をかけた真空中の飛行時間が異なることにより分離される.分離されたイオンの検出器までの到達時間に基づき,質量が測定される.微生物細胞またはその成分を試料とし,MALDI-TOF/MSを測定し,リボソームタンパク質などに由来するピークパターンをデータベースのものと比較することによって,これまでの微生物同定と比較し,短時間でランニングコストが安価である同定方法として検討されている.Candida,Aspergillus,Cryptococcus,Fusariumなどの同定に関する報告がある.

References:
・Sendid B, et al: Evaluation of MALDI-TOF mass spectrometry for the identification of medicallyimportant yeasts in the clinical laboratories of Dijon and Lille hospitals, Med Mycol 51: 25-32, 2013.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻2号掲載

マンノース結合レクチン
mannose-binding lectin

 マンノース結合レクチン(MBL)は,自然免疫応答に重要な動物レクチンで,ウサギの肝臓から単離され,その後,ヒトおよびラットの肝臓からも単離された.Cタイプレクチンに属し,カルシウムイオン存在下に,マンノース,N-アセチルグルコサミンを持つ糖鎖と結合する.MBLは,NH2末端のシステインに富む領域,コラーゲン様ドメイン,COOH末端側の糖鎖認識ドメインから成る32kDa のポリペプチドの多量体によって構成されている.糖鎖リガンドへ結合し,MASPs(MBLassociatedserine proteases)と複合体を形成し,補体活性化反応を引き起こす.また,食細胞の貪食機能を亢進させるオプソニンとして作用する.MBLは,Candida albicans,Aspergillus fumigatus,Cryptococcus neoformansに結合することが報告されており,それらの感染防御に関与していることが示唆されている.

References:
・Kawasaki T, et al: Isolation and characterization of a mannan-binding protein from rabbit liver, Biochem Biophys Res Commun 81: 1018-24, 1978. ・Neth O, et al: Mannose-binding lectin binds to a range of clinically relevant microorganisms and promotes complement deposition, Infect Immun 68: 688-93, 2000.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻1号掲載

メラニン
Melanin

 真菌メラニンは細胞壁に存在し,CryptococcusPara-coccidioidesなどの病原性にかかわる分子として着目されている.合成経路は,1,8-dihydroxynaphthalene(DHN)中間体を介するものとL-3,4-dihydroxyphenylalanie(L-DOPA)からのものの2 経路が知られている.作用メカニズムについて複数の報告があり,メラニンはアンホテリシンBやカスポファンジンの抗真菌薬感受性を低下させる.さらに,細胞レベルでは,マクロファージの食細胞機能やサイトカイン産生機能を抑制し,好中球のディフェンシンや他の抗菌ペプチドや活性酸素種の毒性を減弱させる.また,動物モデルではメラニンの病原因子としての寄与も検討されている.

Reference:
・Nosanchuk JD, Casadevall A: Impact of melanin on microbial virulence and clinical resistance to antimicrobial compounds. Antimicrob Agents Chemother 50: 3519-3528, 2006.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻2号掲載

メモリーT細胞
Memory T cells

 免疫記憶は獲得免疫の象徴的な現象であり,免疫制御の実践例であるワクチン開発などで注目されている.B細胞は抗原刺激を受けると形質細胞となって抗体を産生するとともに,一部はクラススイッチを経て胚中心内でメモリーB細胞となって何十年も生存し,同一の病原体(抗原)に再感染したときに,すみやかに多量の抗体を産生し生体を防御する.T細胞はエフェクターT細胞として病原体と対峙し,一部はメモリーT細胞として再感染に備える.抗体は体液を介して自由に移動できるので,病原体へのアクセスは容易であるが,T細胞は,局所に到達しなければ機能できない.抗原提示を受けた活性化T細胞は,血流を介して全身を監視・循環するか,リンパ節や各臓器に定着する.移動パターンは緻密に制御されており,ケモカイン,リゾスフィンゴ糖脂質,Gタンパク質共役受容体(GPCR)群の関与が示唆されている.
 メモリーT細胞は,CD4 陽性,CD8 陽性細胞として機能分化していることに加え,central memory T細胞(TCM),effector memory T細胞(TEM),resident memory T細胞(TRM),その他,多数の亜集団に機能分化している.TCMはCCR7 とCD 62L を発現し,リンパ節や血中へ容易に移行する.TEM は,皮膚リンパ球関連抗原(CLA)発現に伴い皮膚へ,インテグリンα4 β7 発現に伴い腸管へ移行する.TRM 各種臓器に長く留まる細胞であり,循環中からほかのT細胞の遊走がない状態でも,組織に応じた抗原特異的応答を起こすことができる.バリア組織(皮膚,消化管,肺,生殖器上皮)のTRMは,CD4/8 CD69+CD103+/−をマーカーとし,非バリア組織(脳,膵臓,腎臓,肝臓,胸腺,リンパ節,脾臓)のTRMは,CD8CD69+CD103+/−をマーカーとしている.また,TRMは抑制性受容体(PD-1,Tim-3 など)を高レベルで発現する細胞であり,免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1/PD-L1 治療後に増殖することが報告されている.

Reference:
・Martin MD, Badovinac VP: Defining memory CD8 T cell. Front Immunol 9: 2692, 2018. ・Mami-Chouaib F, Tartour E: Editorial: tissue resident memory T cells. Front Immunol 10: 1018, 2019. ・Jameson SC, Masopust D: Understanding subset diversity in T cell memory. Immunity 48: 214-226, 2018. ・Byrne A, Savas P, Sant S, et al: Tissue-resident memory T cells in breast cancer control and immunotherapy responses. Nat Rev Clin Oncol 17: 341-348, 2020.

東京薬科大学・大野尚仁
日本医真菌学会雑誌63巻2号掲載

マイクロバイオーム
Microbiome

 ヒトの腸管内,口腔内,皮膚には,膨大な数の細菌が生存している.それらの生存する微生物全体をマイクロバイオームという.これまでは培養分離などで限界があったが,メタゲノム解析(細菌叢から直接調製したゲノムをランダムにシーケンスして,そこに存在する遺伝子を同定する方法)により網羅的な解析が可能になってきた.それらマイクロバイオームは宿主への栄養供給や感染防御に有益な面もあるが,炎症性腸疾患や代謝性疾患に関わっていることが示唆されている.マイクロバイオームの検討は細菌が中心であったが,真菌の腸管内,皮膚における存在,Mycobiome(マイコバイオーム)も注目されてきている.Candidaは健常成人30〜70%の消化管粘膜に存在し,MalasseziaCandidaが皮膚に存在することが報告されている.マイクロバイオームと疾患の関連性が示唆されているクローン病患者では,抗S. cerevisiae抗体(ASCA)価が上昇し,動物モデルにおいて,真菌PAMPsであるβ-グルカンに対する受容体欠損が病態の増悪化に関与することが報告されている.また,皮膚においても,アトピー性皮膚炎や頭皮のふけとの関連性が報告されている.

References:Human Microbiome Project Consortium. Nature, 486, 207-14 (2012). Iliev ID et al., Science. 336, 1314-7 (2012).
東京薬大・石橋健一
日本医真菌学会雑誌55巻1号掲載

マイクロRNA
MicroRNA, miRNA

 マイクロRNAは,タンパク質をコードしていない20〜25塩基前後の短鎖RNAであり,標的遺伝子のmRNAに結合し遺伝子発現を調節する.線虫において初めて発見され,哺乳類においても発見されている.細胞内のみならず多くの体液中に存在し,個体発生,細胞増殖・分化,アポトーシス,腫瘍化など多様な生命活動に関わる遺伝子発現に関与している.その解析・応用は新規バイオマーカーや治療法の開発につながると期待されている.CandidaAspergillus感染モデルにおいて,宿主細胞からのマイクロRNA産生が認められ,Toll様受容体からのシグナル伝達やB細胞およびヘルパーT細胞の分化に影響を与えることが報告されている.また,マイコウイルスに感染したAspergillus fumigatusからもマイクロRNAが検出されることが報告されている.

References:
・Croston TL, Lemons AR, Beezhold DH, Green BJ: MicroRNA regulation of host immune responses following fungal exposure. Front Immunol 9: 170, 2018. doi: 10.3389/fimmu.2018.00170 ・Özkan S, Mohorianu I, Xu P, Dalmay T, Coutts RHA: Profile and functional analysis of small RNAs derived from Aspergillus fumigatus infected with double-stranded RNA mycoviruses. BMC Genomics 18: 416, 2017. doi: 10.1186/s12864-017-3773-8

女子栄養大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌61巻4号掲載

数理モデルによる薬剤精密用量
Model-Informed Precision Dosing(MIPD)

 近年,バンコマイシンに代表される薬剤では,従来のトラフ濃度測定から血中濃度-時間曲線下面積(AUC)推算を基本とした投与量設計が国内外のガイドラインで推奨されている.数理モデルによる薬剤精密用量(Model-Informed Precision Dosing:MIPD)を活用し,より正確な予測性を高めたAUC推算は,個別化医療の実践の目的の1 つである.MIPDはコンピュータによるモデルとシミュレーション(M&S)を用いて,患者個々の薬剤投与設計について個人特性をもとに予測することで有効性を改善し,安全性を高める効果が従来の投与設計にくらべ期待できる.特に治療域の狭い薬剤では,有用なツールと報告されている.MIPD は,以前までModel-Based Drug Development(MBDD)といわれ,臨床開発に用いてきた概念から,創薬の定量的意思決定を推進するためModel-Informed Drug Discovery and Development(MID3)となった変遷がある.MID3 は臨床開発だけでなく創薬におけるさまざまなフェーズを対象としている.その後,最終的な意思決定は,人が行うことを強調するため," Informed "という表現に改正されたMIPDが用いられるようになっている.

References:
・Matsumoto K, Oda K, Shoji K, et al: Clinical practice guidelines for therapeutic drug monitoring of vancomycin in the framework of model-informed precision dosing: a consensus review by the Japanese Society of Chemotherapy and the Japanese Society of Therapeutic Drug Monitoring. Pharmaceutics 14: 489, 2022. ・RybakMJ, Le J, Lodise TP, et al: Therapeutic monitoring of vancomycin for serious methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections: a revised consensus guideline and review by the American Society of Health-System Pharmacists, the Infectious Diseases Society of America, the Pediatric Infectious Diseases Society, and the Society of Infectious Diseases Pharmacists. Am J Health Syst Pharm 77: 835-864, 2020. ・Polasek TM, Rayner CR, Peck RW, et al: Toward dynamic prescribing information: codevelopment of companion model-informed precision dosing tools in drug development. Clin Pharmacol Drug Dev 8: 418-425, 2019.

東京女子医科大学病院・浜田幸宏
日本医真菌学会雑誌63巻2号掲載

モノクローナル抗体
Monoclonal antibody

 1つの抗体産生細胞クローンは唯一の構造を持った免疫グロブリンを産生する.1975年MilsteinとKohlerは、細胞融合法を免疫学の分野に応用し、モノクローナル抗体の作製に成功した.抗体産生細胞クローンとミエローマを細胞融合させ、不死化された抗体産生細胞、ハイブリドーマを作製し、その産生細胞から単一のアイソタイプで単一の特異性を有する抗体すなわちモノクローナル抗体を大量に産生させることができるようになった.モノクローナル抗体は、その特異性および安定性にすぐれ、治療や診断などの医学領域のみならず、多岐に応用されてきた.真菌感染防御においてもモノクローナル抗体の検討が行われてきており,グルクロノキシロマンナン、β-マンナン、エノラーゼなどの酵素やタンパク質に対するモノクローナル抗体の報告がされ、クリプトコックス,カンジダ,ヒストプラズマ,パラコクシジオオイデスの感染防御へ寄与する可能性が報告されている.

References:
・Köhler G, et al: Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity. Nature 256: 495-497, 1975. ・Elluru SR, et al: The protective role of immunoglobulins in fungal infections and inflammation. Semin Immunopathol 37: 187-197, 2015.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻4号掲載

ムチン
Mucin

 ムチンは,粘液に存在する糖タンパク質で,細胞膜に結合している膜結合型と分泌される分泌型があり,ヒトでは約20種類のムチン遺伝子が知られている.中央領域にセリン,スレオニンに富んだ繰り返し配列を持ち,そのセリン,スレオニンにO結合による糖鎖が付加された高分子である.分泌型のなかでも,腸管粘膜にはMUC 2ムチンが,気道粘膜ではMUC5ACムチンがおもに分泌されている.ムチンはCandida albicansの宿主細胞への付着を抑制すること,バイオフィルム形成を阻害することが報告されている.また,IL-4産生を介したムチン産生が,Cryptococcus neoformansの感染防御に関与していることが報告されている.アレルギー性真菌性副鼻腔炎では,アレルギー性ムチンあるいは好酸球性ムチンが認められる.

References:
・Kavanaugh NL, Zhang AQ, Nobile CJ, et al: Mucins suppress virulence traits of Candida albicans. MBio 5: e01911, 2014. ・Ishii K, Kawakami K: Up-to-date findings in the host defense mechanism to Cryptococcus infection. Med Mycol J 55: J107-J114, 2014.
[Article in Japanese]
・Kimura M: Histopathological diagnosis of fungal sinusitis and variety of its etiologic fungus. Med Mycol J 58: J127-J132, 2017.
[Article in Japanese]


東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌61巻1号掲載

MLST
Multilocus sequence typing

 真菌あるいは細菌の株型別を行う分子疫学的解析法である.具体的には,複数(通常は7種類位)の生存に必要な遺伝子(ハウスキーピング遺伝子)の400〜500 bpのDNA塩基配列を決定し,その配列の差異(allele)のプロファイルよりST(Sequence Type)番号をつくる.主要な病原菌は解析用のウェーブサイト(www.mlst.net, www.pubmlst.org)が開設されている.
 MLST法では,ハウスキーピング遺伝子を用いるのが基本であるが,株の識別解像度を上げるために変異の高い遺伝子をあえて解析に加えることもある.例えば,Cryptotoccus neoformans / C. gattiiのMLST 解析には,CAP59, GPD1, LAC1, PLB1, SOD1, URA5のハウスキーピング遺伝子に加えて,rRNAのIGS1 領域を加えている.
 その他の分子疫学的解析法にPFGE法,RAPD法あるいはAFLP法があるが,再現性,簡便性やデーターベースの共有化の点からはMLST法のほうが汎用性が高い.これは,DNA塩基配列が簡便かつ安価に解析できるようになったことも大きい.

References:
・Meyer W et al: Medical Mycol 47: 561-570, 2009.

張音実・杉田隆(明治薬科大学微生物学教室)
日本医真菌学会雑誌55巻4号掲載

菌腫
Mycetoma

 菌腫は腫脹・瘻孔(皮膚表面に開口する皮膚や皮下組織のトンネル)形成・瘻孔からの顆粒排出の3主徴がみられる慢性の皮膚および皮下感染症で,原因菌は放線菌やノカルジアなどの細菌のほかに,黒色真菌やアスペルギルスも原因となる.足や下腿に多く,その場合足菌腫(mycetoma pedis)やマズラ足(Madura foot)と呼ばれることがある.3主徴がそろった病態のみを菌腫と呼ぶため,組織中に菌塊が認められるだけでは菌腫とは呼ばない.肺の菌球型アスペルギルス症が「アスペルギルス菌腫」と呼ばれることがあるが,これは誤用である.
 菌腫はおもに熱帯や亜熱帯など暖かく湿潤な地域に偏在した疾患で,外傷などにより土壌中の菌が皮膚に侵入し化膿性炎症を生じ,何ヵ月もかけて次第に化膿性病変は拡大し,ついに外部に開口して膿汁を排出する.外部へ排出される膿汁に混在して肉眼的に顆粒状に見える菌塊が認められ,これを顆粒と呼んでいる.組織標本では菌塊は膿瘍の中央付近に認められ,膿瘍周囲をマクロファージや異物型多核巨細胞が取り巻いて化膿肉芽腫となっていることが多い.病変は深部へも拡大し,筋肉やさらに骨を侵すこともある.

References:
・Chandler FW, Ajello L: Mycetoma. In Pathology of Infectious Diseases (Connor DH, et al, ed), pp.1035-1044. Appleton & Lange, Stamford, USA, 1997. ・Kwon-Chung KJ, Bennett JE. Mycetoma. In Medical Mycology. pp.560-593. Lea & Febiger, Malvern, USA, 1992.

近畿大学病院病理診断科・木村雅友
日本医真菌学会雑誌60巻3号掲載

ミエロペルオキシダーゼ
Myeloperoxidase, MPO

 感染時において,食細胞は活性酸素種を放出して殺菌する.ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は,過酸化水素(H2O2)と塩素イオン(Cl-)から次亜塩素酸(HOCl)を産生する.MPOは好中球のアズール(1次)顆粒に存在し,単球などのミエロイド系(骨髄系)細胞にも検出されることが知られている.荒谷らは,MPOノックアウトマウスを作製し,個体レベルでのMPOの生体防御における役割を検討し,Candida albicans,Aspergillus fumigatus ,Cryptococcus neoformansの肺感染において,易感染性を示すことを報告している.また,ヒトにおいてもMPO欠損が報告されている.その単離好中球はCandida殺菌能が低下していることが報告されていることからも,真菌感染に対するMPOの重要性が示唆されている.また,動脈硬化などの慢性炎症の組織傷害にも関与していることが報告されている.

References:
・Klebanoff SJ: Myeloperoxidase: friend and foe. J Leukoc Biol 77: 598-625, 2005. ・Aratani Y: Role of myeloperoxidase in the host defense against fungal infection. Jpn J Med Mycol 47: 195-199, 2006.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻4号掲載

N
ナチュラルキラー細胞
Natural killer cell

 1975年にKiesslingとHerbermanによって発見された.細胞傷害活性を有し,CD3陰性,TCR陰性の大型リンパ球である.ヒト末梢血リンパ球の5〜10%を占め,脾臓や骨髄にも存在する.自然免疫を担う細胞として考えられ,事前の刺激なしに,in vitroおよびin vivoで腫瘍細胞を傷害する細胞である.細胞傷害活性は,顆粒に蓄えられているパーフォリンやグランザイムを介して引き起こされる.また,抗体にてオプソニン化されたターゲットに抗体依存性細胞傷害(ADCC)を起こす.さらには,さまざまな病原体に対する宿主応答にもかかわることが知られている.真菌であるCandida,Aspergillus,Cryptococcusに対しても傷害活性を示し,それらに対する宿主応答にかかわっている.それには,細胞傷害分子による直接的な抗真菌活性だけではなく,サイトカイン産生を介した間接的な抗真菌作用を示す.

Reference:
・Schmidt S, Tramsen L, Lehrnbecher T: Natural killer cells in antifungal immunity. Front Immunol 22: 1623, 2017.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌59巻2号掲載

好中球細胞外トラップ
Neutrophil Extracellular Traps(NETs)

 好中球は,生体防御系の中心となる細胞の一つであり,常に骨髄で生産され末梢に供給されている.末梢血中の好中球は局所の炎症や感染を鋭敏に感知し,速やかに局所に動員される.好中球は,貪食作用,活性酸素産生,次亜ハロゲン酸産生,顆粒中に含まれる抗菌成分など,様々な殺菌機構を用いて生体防御に寄与している.さらに,最近,活性化された好中球は,好中球細胞外トラップ(Neutrophil Extracellular Traps(NETs))と呼ばれる構造物を細胞外に放出することが明らかとなってきた.
 NETs は,DNA,ヒストン,ミエロペルオキシダーゼ,好中球エラスターゼなどの顆粒成分を含む網目状構造物であり,細菌や真菌などの微生物病原体を補足し,抗菌作用に関与していることが明らかにされてきた.まさに「投網」で病原体を一網打尽にするといったイメージを連想させる名称である.NETs 形成は,PMA や菌体成分であるリポポリサッカライド,グラム陽性菌,グラム陰性菌,真菌(Candida albicans, Aspergillus fumigatus)によって誘導されることが見出されつつあり,今後も感染免疫に関わる多くの事例が報告されるものと思われる.また,全身性エリテマトーデスや血管炎などの自己免疫疾患における,好中球の有害作用にもNETs形成が関与していることが示唆されている.

References:
・Brinkmann V et al., J Cell Biol 198: 773-783, 2012.
・Brinkmann V et al., Science 303: 1532-1535, 2004.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌56巻1号掲載

次世代シークエンス解析
Next generation sequencing

 塩基配列決定法としてジデオキシ法(サンガー法)が広く使用されてきたが,近年になって大規模に塩基配列を決定できる技術が開発されて,真菌をはじめとする微生物種からヒトにいたるまでのゲノムレベルでの塩基配列解析に用いられている.これまでのジデオキシ法とは異なる原理そして種々の検出方法を用いたシークエンサーが世に出ている.初期にはリード(一続きの決定された塩基配列)あたりの解読長が短かったが,現在では10キロベースを超えるような塩基配列決定も可能となってきている.

帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌56巻2号掲載

次世代シーケンシング
NGS: Next Generation Sequencing

 塩基配列を高速に読み出せる装置を用いた新しい解析方法.ランダムに切断された数千万〜数億種類のDNA断片の塩基配列を同時並行で決定することができる.それにより,1 回のアッセイにつき100〜1000億塩基対の配列を高い精度で決定できる.全ゲノム解析,エピゲノム解析,トランスクリプトーム解析(RNAシーケンスやsmall RNA解析)などと応用範囲が広い.Illumina社のMiSeq やHiSeq,ThermoFishcer Scientific社のIon Torrentなどの10〜300 bp の比較的短いリード長を解析する装置や,Pacific Biosciences社のPacBio Sequel,Oxford Nanopore Technologies社のMinIONなどの平均10〜20 kb の長鎖配列を解読できる装置がある.

References:
・Zoll J, et al: Next-generation Sequencing in the Mycology Lab. Curr Fungal Infect Rep 10, 37-42, 2016. ・Giordano F, et al: De novo yeast genome assemblies from MinION, PacBio and MiSeq platforms. Sci Rep 7, 3935, 2017.
国立感染症研究所真菌部・梅山隆
日本医真菌学会雑誌59巻1号掲載

ノカルジア症,放線菌症
Nocardiosis, actinomycosis

 放線菌(actinomycetes)は,放射状に菌糸を伸長し胞子を形成することから形態的には糸状菌によく類似している.しかし,その細胞は原核細胞であることから,細菌と同様に,その分類同定はBergey‛s Manual of Determinative Bacteriologyに沿って行われる.しかし感染様式などが真菌症に類似していることから,放線菌による疾患は慣例的に医真菌学分野で取り扱われている.ヒトに感染し病原性を示す放線菌は好気性菌および嫌気性菌があり,前者の代表はNocardia属で,後者はActinomyces 属である.Nocardia 属による感染がノカルジア症で,Actinomyces 属による放線菌症(アクチノミセス症)と区別される.
 ノカルジア症はおもに日和見感染で,一般にステロイド剤などの免疫抑制剤の使用による感染が多いが,健常者への感染もまれにある.起因菌を吸入することで肺感染症を,皮膚の傷口に入ることで皮膚感染症を起こす.血行性にて全身臓器に播種することがあり,脳への転移による重篤な全身感染も報告されている.わが国のノカルジア症の起因菌としての出現頻度はNocardia farcinica が最も多く,以下Nocardia nova complex,Nocardia abscessus complex,Nocardia cyriacigeorgica と続いている.
 放線菌症を引き起こす起因菌,Actinomyces israelii, Actinomyces viscosus, Actinomyces naeslundiiなどはヒトの常在菌であり,これらの菌が免疫機能の低下,手術,虫歯などの原因によって肺炎,涙小管炎,歯周病などを発症する.

References:
・Takamatsu A, Yaguchi T, Tagashira Y, et al: Nocardiosis in Japan: a multicentric retrospective cohort study. Antimicrob Agents Chemother 66: e0189021, 2022.
千葉大学真菌医学研究センター・矢口貴志
日本医真菌学会雑誌63巻4号掲載

Nod様受容体
Nod-like receptor(NLR)

 NLR(Nod−like receptor)は,nucleotide binding-oligomerization domain(NOD)モジュールと呼ばれるドメイン複合領域を分子に持つ細胞内タンパク質である.ヒトではNod1,Nod2,NLRP3,NLRPC4など約20種のNLRファミリータンパク質が存在し,マウスや魚類,植物にも存在することが知られている.N末端側には下流実行分子に結合するドメインが存在する.また,C末端側に存在するleucine-rich repeatをもつドメインによってペプチドグリカンなどの外来成分をパターン認識すると考えられている.NLRP3は,Candida albicansによって引き起こされるマクロファージの細胞死に関与していることが示されており,Aspergillusによるインフラマソームの活性化にも関与していることが示されている.

References:
・Wellington M, Koselny K, Sutterwala FS, Krysan DJ: Candida albicans triggers NLRP3-mediated pyroptosis in macrophages. Eukaryot Cell 13: 329-340, 2014. ・Karki R, Man SM, Malireddi RKS, Gurung P, Vogel P, Lamkanfi M, Kanneganti TD: Concerted activation of the AIM2 and NLRP3 inflammasomes orchestrates host protection against Aspergillus infection. Cell Host Microbe 17: 357-368, 2015.

女子栄養大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌62巻1号掲載

O
オミックス解析
Omics analysis

 末尾に-ome がつく生物にある各階層,たとえばゲノム,プロテオームなど物質全体の変動を探索し,生命現象を網羅的に解析することをオミックス解析という.遺伝子であればゲノミクス,転写物であればトランスクリプトミクス,タンパク質であればプロテオミクス,代謝物であればメタボロミクスなどがある.それぞれの解析対象によって,次世代シーケンサー,マイクロアレイ,質量分析計,核磁気共鳴装置などを用い解析される.真菌感染症においても,感染時の真菌に対する宿主の応答や病原性真菌自体の解析にオミックス解析のアプローチが検討され,新たな治療や診断方法の発見が期待されている.

References:
・Culibrk L, et al: Systems biology approaches for hostfungal interactions: an expanding multi-omics fron-tier. OMICS 20: 127-138, 2016.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌58巻1号掲載

P
病原関連分子パターン
Pathogen-associated molecular patterns

 宿主など高等多細胞生物にはない,ウイルス,真菌,細菌,寄生体などの病原体に存在する構造の分子パターンをいう.PAMPs (pathogen-associated molecular patterns)とも呼ばれる.真菌におけるPAMPsは,マンナン,グルカン,キチンなどが知られている.細胞は病原体に対する直接的なパターン認識を用いていることが1989年にJanewayによって提案された.PAMPsは宿主の自然免疫に関わるパターン認識受容体(Patternrecognition receptors, PRRs)により認識され,シグナル伝達を引き起こし,病原体に対する免疫応答を引き起こす.

References:Kumar H et al., Int Rev Immunol. 30, 16-34 (2011)
Bourgeois C et al., Front Cell Infect Microbiol. 2: 142. doi:
10. 3389/fcimb. 2012. 00142 (2012)

東京薬大・石橋健一
日本医真菌学会雑誌55巻1号掲載

ペントラキシン3
Pentraxin 3

ペントラキシン3はC末端領域にペントラキシンドメインを持ち,多量体を形成するタンパク質であり,液性パターン認識分子として作用する.他のペントラキシンファミリーには,短いペントラキシンであるC反応性タンパク質(CRP)および血清アミロイドP(SAP)がある.ペントラキシン3はリポ多糖などの微生物成分やIL-1β,TNF-αなどの炎症性サイトカインの刺激により,内皮細胞やマクロファージ,樹状細胞,好中球によって産生される.また,補体成分と相互作用し活性化することや好中球細胞外トラップ(NETs)の構成成分として病原体の排除にかかわっている.Aspergillus fumigatusに結合し,感染防御機構にかかわっていることが報告されている.

References:
・Daigo K, Mantovani A, Bottazzi B: The yin-yang of long pentraxin PTX3 in inflammation and immunity. Immunol Lett 161: 38-43, 2014. ・Garlanda C, Hirsch E, Bozza S, et al: Non-redundant role of the long pentraxin PTX3 in anti-fungal innate immune response. Nature 420: 182-186, 2002.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌60巻3号掲載

黒色菌糸症
Phaeohyphomycosis

 細胞壁にメラニンを有する真菌のなかで,培養した場合にコロニーが黒色調を呈し,組織標本内の真菌要素も黒色から褐色であるものは黒色真菌と呼ばれている.黒色真菌症のうち組織標本では菌糸増殖が主体で,硬壁細胞(sclerotic cell)や石垣状細胞(muriform cell)を認めないものは特に黒色菌糸症と呼ばれている.実際は菌糸のみでなく胞子状連鎖などが混在することが多い.黒色菌糸症を生じる真菌はExophiala, Phialophora, Fonsecaeaなどある程度限られた属の真菌である.多くの症例は皮膚や皮下に限局したものであるが,免疫力が低下している宿主では全身性の感染を生じ死因となりうる.病理組織学的に皮膚・皮下では初期にはリンパ球や組織球などが浸潤し菌糸などを取り囲んだ肉芽腫が認められる.肉芽腫の中心に好中球が多数認められる化膿性肉芽腫のことも多い.次第に肉芽腫は融合し嚢胞状となりフェオミコティックシスト(Phaeomycotic cyst)と呼ばれる状態となり,多くは皮下嚢胞状病変である.その内容は壊死や好中球がほとんどで,辺縁部の肉芽腫領域に菌糸などが組織球や異物型多核巨細胞に貪食されているのが認められる.

References:
・Chandler FW, Watts JC: Phaeohyphomycosis. In Pathology of Infectious Diseases (Connor DH, et al, ed), pp.1059-1066. Appleton & Lange, Stamford, USA, 1997. ・Kwon-Chung KJ, Bennett JE: Phaeohyphomycosis. In Medical Mycology. pp.620-677. Lea & Febiger, Malvern, USA, 1992.
近畿大学病院 病理診断科・木村雅友
日本医真菌学会雑誌61巻2号掲載

薬物動態学/ 薬力学
Pharmacokinetics and pharmacodynamics (PK/PD)

 薬物動態学(Pharmacokinetics: PK)は薬物の用法・用量と生体内での薬物濃度推移の関係を表し,薬力学(Pharmacodynamics: PD)は生体内での薬物の曝露-反応関係の関係を表す.
 抗真菌症薬を含めた抗微生物薬においてPK/PDパラメータ(Cmax/MIC, AUC/MIC,%T>MIC等)は有効性,安全性,耐性化等を関連付け記述・定量化した概念である.
 PK/PDは抗微生物薬の開発や新たな適応症の承認のために行われる非臨床試験や臨床試験において臨床効果を最大限にし,副作用を最小限にするための投与方法を明確にする方法論である.また諸外国やわが国を含む各団体から公表されているブレイクポイントに関しても,PK/PDを参考にしたブレイクポイントが設定されている.
 2016年4 月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016〜2020」が政府閣僚会議から公表され,耐性菌の抑制の観点からもPK/PD理論を応用した適正使用は,ますます重要な意味合いが強くなる.

References:
・Hope W, et al: Pharmacodynamics for antifungal drug development: an approach for acceleration, risk minimization and demonstration of causality. J Antimicrob Chemother 71, 3008-3019, 2016. ・薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020.
URL: http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

東京女子医科大学薬剤部・浜田幸宏
日本医真菌学会雑誌58巻3号掲載

系統樹
Phylogenetic tree

 系統樹とは,生物の持つさまざまな情報(表現性状)を基に,種や集団の進化の道筋を推定するために用いる「樹」を指す.以前は形態学的な特徴や,アイソザイムの電気泳動による解析パターンを基に系統樹の作成が行われていたが,分子生物学的手法の発展により,近年では特定の遺伝子の核酸配列やアミノ酸配列が情報として盛んに用いられるようになった.
 系統樹作成において最初に行うのは多重配列アラインメントである.そして対応する塩基もしくは残基の間に観察される変異の数や種類をもとに,系統関係の推定を行う.系統関係の推定に多く用いられるのは「距離行列法(distance matrix method)」,「最大節約法(maximumparsimony method)」および「最尤法(maximumlikelihood method)」である.ブートストラップ法は,得られた樹形の枝の信頼度を検証するための解析である.
 なお,系統関係の推定に際しては,上記の3つの手法のうち少なくとも2つを用いて同様の結果が得られることを確認することが多い.

References:
・根井正利著, 五條堀孝, 斎藤成也訳:分子進化遺伝学,培風館, 東京, 1990年(初版)
・David W. Mount 著, 岡崎康司, 坊農秀雅監訳:バイオインフォマティクス
 第2版,メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京, 2005年.

高島昌子(理化学研究所バイオリソースセンター)
日本医真菌学会雑誌55巻4号掲載

プロトテカ症(プロトテコーシス)
Protothecosis

 Protothecaは,藻類の一種であるが,二次的に葉緑体を退化させているため光合成を行わない.そのため外部からエネルギー源を摂取する従属栄養生物で,腐生性または寄生性に栄養を得ている.世界中の土壌,植物表面,動物の消化管内,湖沼や汚水中など湿潤な環境下に生息しているが,ヒトや動物に感染する人獣共通病原体でもある.
 1894年にWilhelm KrügerがProtothecaの特徴的な形態,生理学,発育環の様相からChlorellaに近い新たな一属として報告し,藻類として分類されているが,便宜上ヒトや動物のプロトテカ症として医真菌学で扱われてきている.
 Prototheca属には現在のところ15種報告されているが,おもに人,動物に病原性が報告されているのは,Prototheca blaschkeae, Prototheca bovis, Prototheca cutis, Prototheca miyajii, Prototheca paracutis, Prototheca wickerhamiの6種である.
 本症は人,犬,猫ともにまれな疾患で,人や動物は環境から創傷感染すると考えられているが,一方で動物の消化管にも常在していることから,日和見感染症の病原体でもある.症状として皮膚の急性〜慢性の炎症病変を引き起こすが,さらに中枢神経を含めた全身の臓器へ播種する致死的な疾患でもある.また糞便から分離されることから,消化管からの日和見感染が考えられている.そのため最近では,慢性下痢症に対する抗菌剤投与による菌交代症のほかに,免疫抑制剤や抗ガン剤投与の使用頻度の増加に伴い,人,動物とも報告例が増加している.
 診断は,病巣部の病理組織検査で桑実状または車軸状の母細胞を確認するか,病巣からの分離同定によって行う.
 治療法は,藻類に対する特異的な薬剤がないため,あまり殺藻類活性は高くない抗真菌剤および一部の抗菌剤の投与しかなかったため,治癒率の低い疾患であった.しかしながら最近,アゾール系抗真菌剤のラブコナゾールが,in vitroProtothecaに対して殺藻類活性の強いことが判明し,治療効果が期待される.

References:
・Masuda M, Jagielski T, Danesi P, Falcaro C, Bertola M, Krockenberger M, Malik R, Kano R: Protothecosis in dogs and cats-New research directions. Mycopathologia 186: 143-152, 2021. ・Kano R: Emergence of fungal-like organisms: Prototheca. Mycopathologia 185: 747-754, 2020. ・Miura A, Kano R, Ito T, Suzuki K, Kamata H: In vitro algaecid effect of itraconazole and ravuconazole on Prototheca species. Med Mycol 58: 845-847, 2020.

日本大学生物資源科学部・加納 塁
日本医真菌学会雑誌62巻2号掲載

パイロシークエンシング法
Pyrosequencing

 真菌ゲノム解析や網羅的発現解析でも用いられる大規模シークエンシングで用いられている塩基配列決定法の一つである.Mostafa RonaghiとPål Nyrén らによって開発された1).Pål Nyrénによれば,1986年1月に本法を思いついたと記述している2)
 具体的には以下のとおりである.鋳型となるDNAにプライマーが結合してポリメラーゼにより伸長反応を行う部分は同じだが,伸長反応では4種のデオキシリボヌクレオチドのうち,1種類だけ添加する.このとき伸長が起こった部分ではピロリン酸が生じる.この生じたピロリン酸と反応系に添加されたアデノシン-5’-ホスホ硫酸がATPスルフリラーゼ(反応系に添加される)によってATPに変換される.このATPがルシフェラーゼ反応で発光する.この発光を検出することにより,いずれの塩基が取り込まれたかがわかる.4種類のデオキシリボヌクレオチドを順番に取り込ませ,発光を検出することで塩基配列が決定できる.

References:
1)Ronaghi M, et al: Anal. Biochem 242: 84-89, 1996.
2)Nyrén P, et al: Methods Mol. Biol 373: 1-14, 2007.

帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌56巻2号掲載

Q
クオラムセンシング
Quorum sensing

 細菌や真菌などの微生物において,細胞集団として相互にコミュニケーションをとるものとして,周囲の菌体密度を感知して集団行動を起こす現象のことをクオラムセンシングという.その機構として,低分子化合物であるオートインデューサー,クオラムセンシング分子と呼ばれるシグナル物質を産生し,周囲の菌体がその物質を受容体で認識し,行動を変化させる.バイオフィルム形成や病原因子の産生などにかかわっていることが知られている.真菌においても,Candidaが産生するFarnesol,Tyrosol などがクオラムセンシング分子として知られている.

References:
・Albuquerque P, et al: Quorum sensing in fungi - a review. Med Mycol 50: 337-345, 2012.
・Fuqua WC, et al: Quorum sensing in bacteria: the LuxR-LuxI family of cell density - responsive transcriptional regulators. J Bacteriol 176: 269-275, 1994.

日本医真菌学会雑誌58巻1号掲載

R
微生物迅速試験法
Rapid Microbiological Method(RMM)

 環境中の微生物の多くは従来の培地ではコロニー形成能が低く,培養法のみではそのような微生物を検出,計数・計量しがたいことが明らかとなってきた.また,医薬品の製造工程における継続的な微生物管理においては,結果を得るまでに数日から数週間を要し,選択した培養条件によっては,増殖の認められない菌が含まれる可能性が残されていることは問題である.また,培養に伴いバイオハザードのリスクも増加する.これらの課題を解決するために,微生物を培養することなく検出し,その属種に関する情報を得るためのさまざまな手法が開発されている.欧州薬局方(European Pharmacopoeia)には,代替法(Alternative Method)として記載され,検出対象は,核酸,脂肪酸,タンパク質,代謝反応などさまざまである.
 菌体の直接検出法としては,蛍光顕微鏡法,レーザースキャンニングサイトメトリー,フローサイトメトリー,On-chipフローサイトメトリー,蛍光ファージアッセイ,マイクロコロニー法などがある.
 間接的測定法としては,抗原検出法,ファージアッセイ法,脂肪酸分析法,菌体のフーリエ変換赤外分光法,質量分析法,核酸増幅法,DNAのフィンガープリント法などがある.
 増殖評価法としては,増殖の際に生じる代謝産物の増加により生じる電気抵抗や電気伝導度の変化を測定するインピーダンス法,二酸化炭素の産生や酸素等の消費量の変化を測定するガス測定法,菌体内のATPを酵素反応による発光現象をもとに検出する生物発光法,微生物の産生する微弱な熱を測定するマイクロカロリメトリーなどがある.

References:
・小林央子:食品・医薬品・環境分野等の微生物試験法および微生物汚染の制御に関する最近の話題5 「第17改正日本薬局方」微生物迅速試験法.防菌防黴 45; 147-152, 2017. ・佐々木次雄,棚元憲一,菊池 裕(編):新GMP微生物試験法 第3版(第21・22章),じほう,東京,2016.

東京薬科大学・大野尚仁
日本医真菌学会雑誌62巻2号掲載

.
S
スエヒロタケ
Schizophyllum commune

 野外環境において普遍的に見られる担子菌である.枯木などに生育して,子実体(キノコ)を形成する.アレルギー性気管支肺真菌症(Allergic bronchopulmonary mycoses, ABPM)やアレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(Allergic fungal rhinosinusitis, AFRS)の原因真菌として知られる.日本からの臨床報告例が多い.日本での全国調査では,possible ABPA-central bronchiectasis患者の喀痰において培養陽性であった213検体のうち,12検体(6%)からスエヒロタケが分離されている.実験的に子実体を形成させることができ,子実体形成モデルとしても用いられる.

References:
・Oguma T, Taniguchi M, Shimoda T, et al: Allergic bronchopulmonary aspergillosis in Japan: A nationwide survey. Allergol Int 67: 79-84, 2018.

帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌61巻1号掲載

一分子リアルタイムシークエンシング法
Single molecule real time sequencing

 略してSMRTとも呼ばれ,一分子のDNAの塩基配列をリアルタイムに決定する方法である.特に10キロベースを超える塩基配列を決定でき,真菌ゲノム解析などに広く利用されると考えられる.
 検出方法は異なる蛍光色素をもつ4種類のデオキシリボヌクレオチドが伸長反応時に取り込まれた際にその蛍光を捕らえるという点では同じであるが,非常に微小なウェルの中で一分子のDNAとポリメラーゼによる反応を行い,伸長反応において取り込まれた塩基の蛍光検出を繰り返すことで塩基配列を決定していく.

帯広畜産大学・豊留孝仁
日本医真菌学会雑誌56巻2号掲載

表面プラズモン共鳴バイオセンサー
Surface plasmon resonance biosensor

 光をセンサーチップに当てた際の金属薄膜中に表面に発生する表面プラズモン波とエバネッセンス波が共鳴することにより,入射光のエネルギーの一部が減り,反射光が減少する.これは,金属膜表面およびそのごく近傍の質量変化に依存した特定の反射角度においてエネルギーの減少,屈折率の変化が認められる.よって,センサーチップに結合されたリガンドとそれに結合したアナライトの相互作用を検出することができる.表面プラズモン共鳴バイオセンサーは,タンパク質,糖質,核酸,脂質などの生体内分子間の相互作用を標識なしにリアルタイムで測定できる.さらには,相互作用の強さとして,結合定数および解離定数を求めることができる.生体内分子の相互作用に対する基礎研究から病原微生物の検出,診断などの応用が検討されている.

References:
・Bergwerff AA, et al: Surface plasmon resonance biosensors for detection of pathogenic microorganisms: strategies to secure food and environmental safety. J AOAC Int 89: 826-831, 2006.
東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌58巻2号掲載

シンバイオティクス
Synbiotics

 プロバイオティクスは適正量を摂取した際に,腸内細菌叢のバランスを改善するなど宿主に有用な作用を示す生菌と定義され,Bifidobacterium属を含んだ食品がある.プレバイオティクスは腸内有用菌の増殖促進や有害菌の増殖抑制により宿主に有利に作用する食品成分と定義され,オリゴ糖などがそれにあたる.シンバイオティクスはこの両者を組み合わせたもので,両者を同時に摂取することで腸内細菌叢をいっそう改善し健康増進に役立つことが知られている.Lactobacillus属,Bifidobacterium属の投与により,ヒトでの口腔カンジダ症のリスクを低下させること,分泌型IgAの産生が増加することが報告されている.一方で,キシリトールはCandidaの成長や粘膜面への付着を抑制する報告ある.それらを併用するシンバイオティクスの可能性が期待されている.

References:
・Ohshima T, Kojima Y, Seneviratne CJ, et al: Therapeutic application of synbiotics, a fusion of probiotics and prebiotics, and biogenics as a new concept for oral Candida infections: a mini review. Front Microbiol 7: 10, 2016.

東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌60巻4号掲載

T
分類群(タクサ)
Taxon,複数はTaxa

 一定の限界をもつ生物群を分類群(taxon,複数はtaxa)という.われわれが実験室で扱うのは株(strain)で,それぞれの株には種の学名(scientific name)が付されている.種の学名は属名(genus name)と種形容語(species epithet)から成っている.種より上の分類群にも,それぞれ識別のために名前がつけられている.またそれぞれの分類群は階層的になっており階級(rank)がある.この概念的階層体系の基本(界,門,綱,目,科,属,種)は二名法の創設者であるリンネによって築かれた.
 菌類の学名の取扱いは国際藻類・菌類・植物命名規約(International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants,ICN)に従っている.従って,新属や新種,新亜種,新変種などの新たな分類群の提唱は,本命名規約に従って行わなければ正式な発表とみなされない.
 なお,亜種や変種の下になるformや血清型や遺伝子型は分類階級とは認められず,規則も設けられていない.

References:
・長谷川武治. 微生物の分類と同定(上). 学会出版センター, 東京. 2002 年
・杉山純多. 菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統. 裳華房, 東京, 2005 年

理化学研究所バイオリソースセンター・高島昌子
日本医真菌学会雑誌55巻3号掲載

薬物治療モニタリング
Therapeutic drug monitoring(TDM)

 TDM(therapeutic drug monitoring)は薬物治療モニタリングと訳され,1970年台半ばから医療現場でコンサルテーションの1つの手法として,グラム陰性菌の感染症治療に対するアミノグリコシド系抗菌薬のゲンタマイシンをモニタリングに用いられ,その有効性と安全性を評価し,TDMの有用性を報告している.しかし,当初日本では,TDA(therapeutic drug assay)が主体となり,薬物血中濃度の測定を行っていた経緯がある.
 TDMは,特定薬剤治療管理料として診療報酬が認められており,抗真菌薬ではボリコナゾールが算定可能だが入院患者に限られる.コンサルテーション時に注意すべき点として,診療報酬の算定には,血中濃度を測定のみでは特定薬剤管理料の査定の対象にならず,下記にあるような治療計画の要点を診療記録に記載する必要がある.
 TDMコンサルテーションの含まれる内容
 ・薬物濃度測定につながる問題に関する短い記述
 ・薬物動態および効果に影響する可能性のある要因の要約
 ・過去および現在の薬物動態学的データの評価
 ・薬物療法の適切な変更とその後の追跡評価に関する推奨案

References:
・Noone P, Parsons TM, Pattison JR, Slack RC, Garfield-Davies D, Hughes K: Experience in monitoring gentamicin therapy during treatment of serious gram-negative sepsis. Br Med J 1: 477-481, 1974.

東京女子医科大学病院・浜田幸宏
日本医真菌学会雑誌62巻2号掲載

胸腺間質性リンパ球新生因子
Thymic Stromal Lymphopoietin : TSLP

 胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)はIL-2ファミリーに属し,IL-7に最も相同性の高いサイトカインである.おもな産生細胞は,胸腺,扁桃,気管,皮膚,消化管上皮細胞などの上皮細胞などである.TSLP受容体は,骨髄系樹状細胞,2型自然リンパ球,肥満細胞,好塩基球,好酸球に発現しており,IL-7受容体α鎖とヘテロダイマーを形成することにより,機能を発現する.TSLPはTh2型免疫反応を誘導/増強し,アレルギー疾患患者の病変組織で高発現していることやアレルギー疾患モデルマウスでの関与が報告されている.Aspergillus由来プロテアーゼによって誘導される自然リンパ球からのTSLP産生が,気道好酸球増多誘導に関与していること,Trichophyton暴露によってもTSLPの発現が増強することが報告されている.
 TDMコンサルテーションの含まれる内容
 ・薬物濃度測定につながる問題に関する短い記述
 ・薬物動態および効果に影響する可能性のある要因の要約
 ・過去および現在の薬物動態学的データの評価
 ・薬物療法の適切な変更とその後の追跡評価に関する推奨案

References:
・Soumelis V, Reche PA, Kanzler H, et al: Human epithelial cells trigger dendritic cell mediated allergic inflammation by producing TSLP. Nat Immunol 3: 673-680, 2002. ・Hiraishi Y, Yamaguchi S, Yoshizaki T, et al: IL-33, IL-25 and TSLP contribute to development of fungal-associated protease-induced innate-type airway inflammation. Sci Rep 8: 18052, 2018.
東京薬科大学・石橋健一
日本医真菌学会雑誌60巻4号掲載

Toll様受容体
Toll-like receptor

 Hoffmannらは,ショウジョウバエの真菌感染防御に寄与する分子Tollを見い出した.Toll様受容体(TLR)は,Tollのホモログとして哺乳動物から同定された.TLRは病原体に対するパターン認識分子であり,自然免疫系の活性化とサイトカイン誘導に関与する中心的分子である.Beutlerらは,グラム陰性菌外膜の主要成分であるリポポリサッカライドに対するマウスの系統差の研究を行っている過程で,不応答性のマウス(C3H/Hej)は,TLR 4に点変異が起きていることを見い出した.これを契機として,各TLR分子の欠損マウスが作出され,PAMPsの構造と自然免疫受容体に関する構造と活性に関連性に関する研究が著しく進展した.マウスでは13種類,ヒトでは10種類のファミリーメンバー分子として知られている.マウスにおいてToll様受容体のシグナル伝達分子であるMyD88をノックアウトしたマウスでは,Candida albicans,Aspergillus fumigatusなどの真菌感染に感受性であること,Toll様受容体はdectin-1などのC-タイプレクチンと相互作用し機能することが報告されていることから,真菌感染防御に関与することが示唆されている.

References:
・Lemaitre B, et al: The dorsoventral regulatory gene cassette
 spätzle/Toll/cactus controls the potent antifungal response in Drosophila
 adults, Cell 86: 973-83, 1996.
・Poltorak A, et al: Defective LPS signaling in C3H/HeJ and C57BL/10ScCr
 mice: mutations in Tlr4 gene, Science 82: 2085-8, 1998.

東京薬科大学免疫学教室・石橋健一
日本医真菌学会雑誌57巻1号掲載

U
ウレアーゼテスト
Urease test

 採取された臨床検体から分離される酵母の鑑別法の1つで,子嚢菌系酵母と担子菌系酵母の鑑別に用いることができる.Cryptococcus属酵母やTrichosporon属酵母などの担子菌系酵母はウレアーゼを産生し,Candida属酵母などの子嚢菌系酵母はウレアーゼを産生しない.クリステンゼンの尿素寒天培地(Christensen’s urea agar medium)(培地組成の1例,0.1% [w/v] peptone, 0.1% [w/v] glucose, 0.5% [w/v] sodium chloride, 0.2% [w/v] monopotassium phosphate, 2.0% [w/v] urea, 0.0012% [w/v] phenol red, and 1.5% [w/v] agar)に被検菌を接種し,インキュベーションする(インキュベーションの温度,期間などは菌によって異なる).液体培地が試験に使用されることもある.供試菌がウレアーゼを産生し,尿素が分解されると,培地の色が黄色から紅色に変化する.ウレアーゼが産生されない場合は,培地の色に変化はないか僅かに薄紅色に変化する程度である.
 クリステンゼン尿素寒天培地を用いたウレアーゼテストは,皮膚糸状菌(白癬菌)の菌種の鑑別にも使用されている.ヒト白癬の最も重要な起因菌であるTrichophyton rubrumはウレアーゼ陰性であり,Trichophyton mentagrophytesはウレアーゼ陽性である.

References:
・金井正光監修, 奥村伸生, 戸塚 実, 本田孝行, 矢富 裕編集:臨床検査法提要. 改訂第35版. p.1165, 金原出版, 東京, 2020. ・山口英世, 内田勝久: 真菌症診断のための検査ガイド. pp.248-249, 栄研化学, 東京, 1994.
帝京大学・山田 剛
日本医真菌学会雑誌62巻3号掲載

Z
好獣性皮膚糸状菌
Zoophilic dermatophytes

 おもに動物間で感染している皮膚糸状菌のことで,時に人にも感染する.対照的に人から人へ感染するものは,人体寄生性皮膚糸状菌(anthropophilic dermatophytes)と呼ばれる.国内で認められる好獣性皮膚糸状菌(おもな宿主)として,Microsporum canis(犬,猫),Trichophyton mentagrophytes(兎,げっ歯類),Trichophyton benhamiae(兎,げっ歯類),Trichophyton erinacei(針鼠),Trichophyton equinum(馬),Trichophyton verrucosum(牛),Lophophyton gallinae(鶏,軍鶏)などが報告されている.上記のように菌種によって感染するおもな宿主が異なる.人への感染性は菌種によってさまざまであるので好獣性皮膚糸状菌が必ずしも人獣共通感染症の原因菌とはならない.
 最近の分子系統学的解析から,皮膚糸状菌は好土壌性(土壌生息性)皮膚糸状菌が動物に感染し,病原性を強くしたものが好獣性皮膚糸状菌となり,そのなかで人への病原性が特化したものが好人性皮膚糸状菌へと進化したものと推測されている.そのため好獣性皮膚糸状菌は,好人性皮膚糸状菌への予備軍であり,何かのきっかけで人へ流行する可能性があるため,疫学的に注意が必要である.

References:
・Segal E, Elad D: Human and zoonotic dermatophytoses: epidemiological aspects. Front Microbiol 12: 713532, 2021. ・Tang C, Kong X, Ahmed SA, et al: Taxonomy of the Trichophyton mentagrophytes/T. interdigitale species complex harboring the highly virulent, multiresistant genotype T. indotineae. Mycopathologia 186: 315-326, 2021.
帝京大学医真菌研究センター・加納 塁
日本医真菌学会雑誌63巻2号掲載

接合菌類
zygnomycete

 接合菌類とは,配偶子嚢の接合(有性生殖)により形成される胞子「接合胞子」を有する菌群である.この接合胞子は厚い細胞壁をもち,また,菌糸体が隔壁をもたないことも接合菌類の特徴である.いくつかの種は胞子嚢を形成し,このなかに無性の「胞子嚢胞子」をつくる.真菌は従来,形態,有性生殖の方式により分類されていたが,近年では,多遺伝子の塩基配列を使用した分子系統解析による体系が提案されている.Hibbetら(2007)は,これまで1つの門にまとめられていた接合菌類が多系統であることから接合菌門を解体し,ツボカビ門,ネオカリマスティクス門,コウマクノウキン門(以上の3 門が旧ツボカビ門),グロムス菌門,子嚢菌門,担子菌門,微胞子虫門および門としての所属不明の4 亜門(ケカビ亜門,ハエカビ亜門などいずれも接合菌門に由来)に分類した.これまでの疾患名である接合菌症の主要な原因菌であるMucor,Rhizopus,Lichtheimia(Absidia),Cunninghamellaなどはケカビ亜門に分類されるため,これらが原因となる真菌症にはムーコル症が使われる.かつて接合菌症に含まれていたBasidiobolus,Conidiobolus による真菌症は原因菌がハエカビ亜門に所属するためムーコル症に含めない.その後,ゲノムスケールの系統発生解析が行われた結果,接合菌類がケカビ門,トリモチカビ門の2つの門,6つの亜門に再編成された.さらに,Tedersooら(2018)は,9 個の亜界,18 個の門に再分類している.ケカビ亜界の下にケカビ門が所属する.ハエカビ門(Conidiobolus が所属),Basidiobolomycota(和名はまだ提案されていない,Basidiobolusが所属)はそれぞれトリモチカビ門から独立した分類群として扱われている.

References:
・Hibbet DS, Binder M, Bischoff JF, et al: A higher-level phylogenic classification of the Fungi. Mycol Res 111: 509-547, 2007. ・Spatafora JW, Chang Y, Benny GL, et al: A phylum-level phylogenetic classification of zygomycete fungi based on genome-scale data. Mycologia 108: 1028-1046, 2016. ・Tedersoo L, Sánchez-Ramírez S, Kõljalg U, et al: High-level classification of the Fungi and a tool for evolutionary ecological analyses. Fungal Divers 90: 135-159, 2018.
千葉大学真菌医学研究センター・矢口貴志
日本医真菌学会雑誌62巻4号掲載

Other
β-グルカン
β-glucan

 グルコピラノースがβ-配位によって結合した多糖のことであり,真菌,細菌,植物など自然界に広く分布する.真菌においては,β-1,3-またはβ-1,6-結合を有するβ-1,3-またはβ-1,6-グルカンが細胞壁の構成多糖,真菌PAMPs として存在する.β-1,3- /β-1,6-グルカンの比率,構造の分岐度は,真菌ごとに異なる.また,それら構造上の特徴や溶解度,分子量,高次構造が炎症性サイトカイン産生などの生物活性に関わっている.β-1,3-グルカンは,接合菌を除く真菌に共通に含まれているため,カブトガニの血液凝固因子であるG因子を用いた評価系が,真菌症の血清診断法として用いられている.また,β-1,3-グルカン合成酵素,Fks に対する阻害剤であるキャンジン系抗真菌薬が,有用な抗真菌薬として臨床で用いられている.

References:Latgè JP, Cell Microbiol. 12, 863-72 (2010)
大野尚仁監修, βグルカンの基礎と応用, シーエムシー出版 (2011)

東京薬大・石橋健一
日本医真菌学会雑誌55巻1号掲載