日本医真菌学会の歩み

 日本医真菌学会は、その名の通り、病原真菌や真菌症に関する唯一の専門学会として、わが国の医真菌学研究のうえで、長年にわたって中心的な役割を果たしてきました。
 日本医真菌学会が創立したのは昭和31年(1956年)秋であります。学会創立の母体となったのは、その前年の昭和30年(1955年)に結成された文部省科学研究費による「カンジダ症総合研究班」であり、堂野前維摩郷(当時の大阪大学内科教授)、秋葉朝一郎(当時の東京大学細菌学教授)両先生をはじめ、関連する臨床・基礎の多くの分野の指導的研究者を糾合した、まさしく学際的な研究者グループが組織されていたからこそできたと云えます。
 真菌は、 生物五界の一つを構成する真核生物であり、 醸造や発酵食品、 薬品などを介して、 古くより人の生活に関わりのある微生物であります。 疾病としては、 白癬等の表在性皮膚感染症の原因菌として、 皮膚科領域での研究が主体でありました。 その一方、 内科領域では白血病患者に発症する重篤な合併症である全身性真菌症や、 抗生物質および副腎皮質ホルモンの強力な使用による弊害としての真菌症が認知されるようになり、 医学領域における真菌に関する専門的な学術集会の必要性が求められるようになりました。
 日本医真菌学会は日本医学会分科会として学術総会開催66回の歴史を重ねております。文字通り医学領域における真菌学を主題とした本学会では、 医学の他に理学、 薬学、 農学、 水産学、 獣医学、 食品微生物学など極めて多岐にわたる専門領域の研究者が参加し、 学術総会では、 例年、活発な議論が交わされております。 医学領域に限っても、内科学、 外科学、 皮膚科学、さらには救急医学などの臨床医学に加え、 病理学、 微生物学、 免疫学、 生化学、 薬理学などを専攻する研究者が参加し、 日々状況の変化する真菌症に対応すべく、 研究成果の発表と議論の場として本学会が運営されております。 また近年では、 様々な医療の環境の変化、 特に悪性腫瘍に対する化学療法の進歩や臓器移植、 後天性免疫不全症候群の蔓延などを背景にして、 重篤な日和見感染症としての深在性真菌症が問題となってきており、 改めて医真菌学の重要性が認識されています。
 このような状況下で、 現在医真菌学会は1100余名の会員により構成されるまでに到り、広い領域から研究者が参加すると同時に、 医学領域における真菌学という極めて専門性の高い学会として、 感染症学の発展に寄与してきた学会と考えております。
 この学会において発表・討議される内容は広く真菌症の重要性を再認識するのみならず、 実地の医療従事者から研究者に到るまでの幅広い斯学の徒に知識普及を計ると同時に、 新たな研究課題の想起や更なる診断や治療の進歩を促し、 広く公共の福祉に貢献するものと考えております。
 また、日本医真菌学会機関誌として、昭和35年(1960年)に「真菌と真菌症」が創刊され、現在は「Medical Mycology Journal」として年4回発行されており、論文も急速な学問の進歩を反映して活発な投稿がなされています。